賃金相場についていけない会社の生き残り策は?

 最後のポイントは、「経済全体が衰退する」ことです。世帯収入が減れば、お金が消費に回りづらくなります。人々はより少ない収入で生活できる範囲に支出を制限し、経済活動は縮小していきます。最低賃金上昇の恩恵を受けた一部の層が消費を増やしたとしても、支出を減らす人がそれ以上に多ければ、経済は萎んでいかざるを得ません。

 経済活動は基本的に生産と消費で成り立っていますが、今はそのバランスが、生活が苦しい方のラインに寄った状態です。そのラインがより苦しい方に寄ってしまわないよう注意しながら賃金相場を上げていき、生活が楽になる方へと傾かせていく必要があります。しかし、賃上げペースが遅すぎても急すぎても、生産と消費のバランスがあらぬ方向へと崩れて生活がさらに苦しくなる人が増えてしまうことになりかねません。

 物価高が続き、実質賃金の上昇が心もとない中で、賃上げ機運を高めていくこと自体は取り組まなければならないはずです。最低賃金の引き上げは、そのための変化を促す施策に違いありません。ただ、経済活動のバランスを崩してしまわないよう適度なペース配分にしたり、激変緩和措置なども講じたりしなければ、意図とは相反する結果を招くことになる可能性があります。

 政府は今も中小企業・小規模事業者のための業務改善助成金や働き方改革推進支援助成金といった取り組みを進めていますが、それらを適宜改善することはもちろん、支援策を講じても先行きが厳しい会社については、より生産性の高い会社とのM&Aを促進するような施策も必要になります。

 一方で、経済同友会の新浪剛史代表幹事は定例記者会見で、「(最低賃金1500円を)払わない経営者は失格」と断じましたが、賃金相場についていけず存続が難しい会社も出てくるかもしれません。そんな痛みを伴うことも、受け入れる必要が生じてくるはずです。

「賃金払えない企業は退出を」と発言して物議を醸す経済同友会の新浪剛史代表幹事「賃金払えない企業は退出を」と発言して物議を醸す経済同友会の新浪剛史代表幹事(写真:共同通信社)