生産性向上が促進されれば雇用機会自体が減っていく恐れも

 いずれにせよ最低賃金が1500円になれば、日常生活を営む上でさまざまな相場が変化することをすべての国民は認識しておく必要があります。

 正社員でなかったとしても時給1500円以上の仕事は今でもたくさんありますが、主に法人を顧客にしている仕事です。あるいは個人を顧客とする仕事でも、高単価の商材を扱っているものが中心になります。

 最低賃金が大きく上昇するということは、最低賃金に近い相場で働く人が多い、食品や日用品などの小売業や飲食店といった個人が日常生活の中で購入するリーズナブルな商材については、大きく値上がりする可能性があるということです。提供価格を上げなければ、経営が圧迫されて最低賃金以上の金額が支払えなくなってしまいます。

 以上のような流れで、「雇用が減る」→「世帯収入が減る」→「経済全体が衰退する」→「雇用が減る」……と望ましくないスパイラルを生み出すことになるのが、悲観シナリオです。

 もちろん、【前編】で紹介したような楽観シナリオに近い形で進み、雇用も世帯収入も大きく増えていってくれればよいですが、悲観シナリオに近い形で進めばより厳しい生活環境に陥ることになります。

 今はすでに、初めてアルバイトする学生でも、全国平均で時給1055円が支払われる時代です。この水準でさえほんの数年前の感覚とは大きく異なりますが、石破首相の宣言通りのペースで最低賃金が上がれば、5年後にはこの水準が約1.5倍に引き上げられます。

 つまり、未経験の学生アルバイトでもいまの1.5倍の成果が出せるだけの生産性向上が、全ての職場に求められるということです。その実現のためにはDXやAIなどのテクノロジーを駆使して自動化を進めるといった取り組みなども考えられますが、機械による代替が促進されれば雇用機会自体は減っていきます。

 すると人手不足は解消されますが、その結果、世帯収入の減少につながることになれば悲観シナリオに陥る懸念が生じます。ただ、最低賃金1500円はあり得ないほど高い金額かというと、そうとは言えません。