
60代の就労実態に関する調査は多いが、調査対象を「職業キャリアの大半を正社員として勤務していた60代」に限定したものはほとんど見られない。65歳までの雇用義務に加えて、70歳までの就業機会確保努力が企業に要請される中、「ふつうの会社員」だった60代はどのように仕事と向き合っているのだろうか。
そのような60代に焦点を当てたパーソル総合研究所の調査*1からは、これまでの勤務先やグループ企業に勤める継続勤務者であっても、必ずしも「長年のキャリアで培った専門能力を発揮して活躍している」とは言い難い姿が浮かび上がってくる。その調査結果を基に、本稿(前編)は、「ふつうの会社員」だった60代の就労実態やプロフィール、(後編)は職場における立ち位置や企業が取るべき施策を解説する。
(藤井 薫:パーソル総合研究所 上席主任研究員)
>>(後編)ふつうの会社員、60歳超えると6割が給与減…モチベーション低下で「働かないおじさん」が量産されるただ一つの原因
*1:パーソル総合研究所 「『正社員として20年以上勤務した60代』の就労実態調査」
(1)「正社員だった60代」は今もフルタイムで働き続けている
総務省「労働力調査」(2023)によると60代前半の就業率は74.0%、60代後半は52.0%であり、60代の労働参加が進んでいる。パーソル総合研究所の調査では、対象を「正社員として20年以上勤務した60代」に限定すると、企業に雇用義務がある60代前半の就業率は95.8%と極めて高く、60代後半でも89.3%と約9割に達する。
これを性別に見ると、60代前半・後半とも就業者の約8割を男性が占める。男女雇用機会均等法が施行された1986年に大学卒22歳で就職した均等法一期生は、調査時点の2024年でちょうど60歳。現在の60代女性は一般職として就職、結婚を機に寿退社して専業主婦になり、正社員経験が20年に満たない人が多いと思われる。
就業者の就業形態を見ると、パート・アルバイトは60代前半で10.9%、60代後半は33.9%に過ぎない。60代前半の9割、そして60代後半の3分の2は、正社員や定年再雇用、契約・嘱託社員として勤務している。
また、パート・アルバイトではない正社員等(正社員、定年再雇用、契約・嘱託社員)の勤務日数を見ると、フルタイムで勤務する人は、継続勤務者(55歳時点で勤めていた企業、または、そのグループ企業に勤務する人)の60代前半が95.7%、60代後半でも85.5%だ。転職者(55歳以降に正社員等として転職した人)でも60歳前半の88.2%、60代後半で75.5%がフルタイム勤務である。
「正社員だった60代」は、すでに70歳までフルタイムで働き続けるのが当たり前と言える状況だ。少なくとも形の上では、まごうことなく、ガッツリ働く「現役」世代である。
では、60代以降の就労者の懐事情はどうだろうか。フローとストックの両面から見てみよう。