「ワークライフバランスという言葉を捨てます」と発言して物議を醸した高市早苗首相(写真:つのだよしお/アフロ)
(川上 敬太郎:ワークスタイル研究家)
「全身全霊で職務に打ち込む決意」を示すのにふさわしい発言だったのか
高市早苗首相が就任し、初めて女性の政界トップが誕生しました。日本の歴史に新たな一ページが刻まれた感があります。各メディアの調査によると高市内閣に対する支持率は軒並み高く、国民の多くが期待を寄せている様子がうかがえます。
一方、高市首相が自民党総裁に選出された直後の「ワークライフバランスという言葉を捨てます」という発言も話題になりました。労働時間規制の緩和を検討するよう指示したとの報道が出たこともあり、今も物議を醸しています。
決して、ワークライフバランスの意義を否定する意図ではなく、「必死にがんばります」といった言葉と同様に意気込みを語ったに過ぎないと思いますが、多方面から賛否両論が聞かれるのは高い注目度の表れなのかもしれません。
ただ気になったのは、意気込みを伝えるにあたって“ワークライフバランスを捨てる”という表現が使われたことです。
他にも、適した言い回しはたくさんあったと思います。全身全霊で職務に打ち込む決意を示したい時、ワークライフバランスとは、その最も対極にある状態を象徴する言葉なのでしょうか。
そもそも、ワークライフバランスとは何か。内閣府の「仕事と生活の調和推進サイト」では、ワークライフバランスが実現した社会を次のように定義しています。
〈国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会〉
一見するとできて当たり前のようにも感じられる定義ですが、あえてこのような文言が掲げられているのは、現実との間にギャップがあるからに他なりません。この文言を裏返してみると、現実の姿がどのようなものなのかが浮かび上がってきます。