カスハラは「老害」だろうか?(写真:aijiro/Shutterstock.com)

パーソル総合研究所の研究員による新連載『「働く」のウソ・ホント』、第1回は顧客による従業員に対するハラスメント、いわゆる「カスハラ」を取り上げる。カスハラ被害は「増えている」と思われているが、その多くが高齢者による「老害」として語られることも少なくない。だが、それは本当だろうか?

(パーソル総合研究所 上席主任研究員 小林祐児)

耳目を集める「カスハラ」問題

 今年に入り、かつてないほどにカスタマーハラスメントへの世間の注目が集まっている。この通称「カスハラ」は、従業員に対する顧客からの不当な要求や嫌がらせ行為のこと。連日テレビでも取り上げられ、センセーショナルな暴言の音声などとともに、多くの耳目を集めている。

 政府や自治体も、すでに対策に動きだしている。厚労省は令和4年(2022年)には企業向けマニュアルを作成し、ポスターやリーフレットなどで啓発活動を強化してきたが、いよいよ企業に対策を義務付ける法改正に向けて動きだした。また、東京都でも全国の自治体に先駆けたカスハラ防止条例制定に向け、その内容を議論しており、今年中にも具体的な進展が見られそうだ。

 民間各社でも対策は進む。コロナ禍からのインバウンド客の復活により、顧客サービス職の人材不足がますます高まる中で、企業はカスハラ対策を進めてきた。カスタマーサービスなどの専門部署の拡充はもちろんのこと、カスハラに対する企業方針の発表や、ポスターによる啓発活動、従業員の名札廃止、監視カメラ導入など、目に見える対策を続々と打ち始めている。

小林 祐児(こばやし・ゆうじ) パーソル総合研究所 上席主任研究員
 NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年よりパーソル総合研究所。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っている。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。著作に『リスキリングは経営課題 日本企業の「学びとキャリア」考』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)、『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』(インターナショナル新書) など多数。

 では、どの程度カスハラは広がっているのだろうか。

顧客折衝がある職種では35.5%が被害を経験

 パーソル総合研究所の調査では、顧客折衝のある職種について、35.5%の従業員が過去にカスハラを経験しており、3年以内の被害経験者は20%を超えた。

 職種別には、最も被害経験率が高いのは「福祉系専門職員(介護士・ヘルパーなど)」で3年以内経験率が34.5%であった。2位以降は「顧客サービス・サポート」、「受付・秘書」、「医療系専門職員(医師・看護師など)」と続いた。ちなみに、被害内容としては「暴言や脅迫的な発言(60.5%)」が最も高く、「威嚇的・乱暴な態度(57.7%) 」、「何度も電話やメールを繰り返す(17.2%)」と続く。

 気になるのは、こうしたカスハラをとりまく状況について、しばしばカスハラの「増加」傾向が指摘されてきていることだ。先ほどの調査でも、被害経験者の32.6%がここ3年でカスハラ被害が「増加した」と回答した。相談も報告もされない暗数も多い中で、カスハラの客観的な実数を追うのは極めて困難だが、他の機関の調査でも、主観的には「増加」傾向が報告されている。なぜだろうか。