カスハラはヤバい会社をあぶり出す(写真:yamasan0708/Shutterstock.com)

昨今、顧客からの不当な要求や嫌がらせ行為であるカスタマーハラスメント(以降カスハラ)が社会問題化している。しかし、カスハラ被害には、従業員が我慢したり、報告しても上司や会社から無視されたりするなど、暗数化(表に出てこない)してしまうという問題もつきまとってきた。会社も世間もカスハラ被害の実相を知らないまま、苦しむのは従業員だけ、という構造がある。『なぜカスハラ被害は「増える」のか?』の2回目は、できるだけ客観的なデータを紹介しながら、求められる企業側の対応について議論する。

(パーソル総合研究所 上席主任研究員 小林祐児)

■連載『「働く」のウソ・ホント』
なぜカスハラ被害は「増える」のか?
(1)「カスハラは老害」のウソ、被害が「増える」本当の理由…3つの火種と広がる着火点

「仕事を辞めたい」38%、カスハラが与える心理的ダメージ

 2万人を超えるサービス職を対象にしたパーソル総合研究所の調査では、全体で35.5%の従業員が過去にカスハラを経験し、3年以内の被害経験者も20%を超えた。こうしたカスハラ被害は、従業員にどのような影響を与えるだろうか。

 カスハラ被害を受けた後、「仕事を辞めたい」と感じた者が38.0%、「出勤が憂うつになった」と感じるものが45.4%と高い割合にのぼる。やはりカスハラ被害はかなりのネガティブな心象を残している。

出所:パーソル総合研究所『カスタマーハラスメントに関する定量調査
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 さらに多角的に把握するために、1年以内にカスハラを受けた経験がある群とない群について、職種や性別・年代をコントロールしながら比較した。すると、被害経験がある群は転職意向が1.8倍から1.9倍も高くなっていた。年間の平均離職率で比較してみても、カスハラ被害がある職場では、年間平均離職率が約1.3倍も高くなっていた。

 労働力不足があらゆる領域で叫ばれる日本において、カスハラは、これまでも今この瞬間も、人手不足を大きなレベルで加速させているのは間違いない。サービス業の人手不足については、「生産性向上」や「ロボット化」、「イノベーション」といった一見前向きな解決策が叫ばれがちだが、そうしたポジティブなことばかり見つめるよりも、まずカスハラというネガティブな要素に適切に対処する方が、確実に効果が見込めるだろう。

 では、カスハラについて企業はどのようなことができるだろうか。