AIと対話し事前に訓練
例えば、株式会社インタラクティブソリューションズは、さまざまなパターンでクレームを出すAIと対話する練習ツール「iRolePlay」を提供している。ソフトバンクと東京大学も共同で、コールセンターで自動的に客の声色を抑制し、怒り声などを和らげることでストレスを緩和する「Emotion Canceling」を開発している
一方で、こうした集団的な訓練が難しいのは、サービス業のように小規模企業が多い業界にとって一定規模以上でないと実施が難しいことだ。また、人材の流動性が高く入れ替わりが激しい場合には、訓練のタイミングも難しく、コストをかけて講師を呼ぶまでに至らないことがよくある。
カスハラに「強い」職場に必要な組織への「信頼」
そして、企業としてさらに考えるべきは、3つ目の「カスハラが起こったとしても、負の影響を最小化させる」ことである。いわば「カスハラに強い職場づくり」だ。こうした視点でカスハラを考えるとき、カスハラと人材マネジメント全体との関連が見えてくる。
そこでパーソル総合研究所が「カスハラに強い」組織の要素について独自データを分析した結果、職場に蓄積した「信頼資産」の重要さが浮かび上がった。
ここで言う「信頼資産」とは、「何かあっても会社全体で助け合えるだろう」と思える、会社の中の信頼の蓄積である。カスハラなどのトラブルに対して、同僚や会社、上司に対する信頼感が高いことが、負の影響を軽減させていた。
例えば、「信頼資産」が高い群と低い群を比較すれば、カスハラ被害後の従業員の心境として「仕事を辞めたい」と感じる率がおよそ半減し、「心身に不調をきたした」は14.9ポイント低く、「転職時は顧客やり取りの無い仕事につきたい」が18.6ポイント低くなっていたのだ。逆に、自分はトラブルがあっても何もできない、といった「心の負債」が高い場合には反対の傾向が見て取れた。
これはつまり、同じカスハラが起きたとしても、組織に対する従業員の「構え」が異なれば、離職やメンタルへのダメージといったネガティブな影響もまた異なるということだ。トラブルが起きても社内で助け合って対処できると会社を「信頼」しているか、逆に「怯え」ているか。前者がまさに、「カスハラに強い」組織である。
では、職場の信頼資産を高めるにはどうしたらよいだろうか。