2024年5月、経済産業省の有識者会議により、今後のエネルギー政策の在り方を定める「第7次エネルギー基本計画」の改定論議がスタートした。国際的な脱炭素の要請が強まる一方で、地政学的リスクの高まりによりエネルギーの安定調達が揺らいでおり、その中で日本が中長期的にどのような電源構成を目指すのかが注目される。重要な論点の一つとなりそうなのが、LNG(液化天然ガス)の位置付けだ。
エネルギー基本計画の議論の方向性と、LNGに期待される役割、カーボンニュートラルに向けたe-メタンの可能性などについて、ガスエネルギー新聞常務取締役編集長の大坪信剛氏に聞いた。
「カーボンニュートラル宣言ありき」で策定された第6次エネルギー基本計画の課題
──「第7次エネルギー基本計画」(以下、7次計画)の改定に向けた有識者の議論が始まりました。なぜ今回の改定が注目されているのでしょうか。
大坪信剛氏(以下・敬称略) そもそもエネルギー基本計画は、日本のエネルギー政策の中長期的な方向性を決めるものです。例えば石油、天然ガスなどの化石燃料の場合、探鉱開発を経て有望な油田やガス田を発見し、採掘設備や生産施設を建設して、実際に採収できるようになるまで、数十年単位の長い年月と巨額の投資を要します。
果たしてこのエネルギーは今後どのぐらいの年月にわたって使われるのか、詳細に検証した上で投資判断しないと、開発企業の存続に関わります。ですから、各国政府が長期的なエネルギー構成をどのように構想し、今後どのエネルギーをどれぐらい使う計画なのかという情報は、世界のエネルギー需要を見通す上で極めて重要です。
その意味でエネルギー基本計画は、エネルギーの需要家はもちろんですが、石油や天然ガスなどの供給を担う国内外の事業者からも注目されるのです。
もう一つ、今回の7次計画が注目されるのは、前回の6次計画で盛り込まれた脱炭素化の方針に、何らかの調整や変更が盛り込まれる可能性があるためです。
2020年10月、当時の菅義偉首相が「日本は2050年までにカーボンニュートラルを目指す」との宣言を発表。第6次計画はその翌2021年10月に閣議決定されており、カーボンニュートラル宣言を色濃く反映して、かなり無理をして作成した内容となりました。
例えば電力を生み出すエネルギーを種類別に割合で示した「電源構成」のうち、発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しない原子力の割合については現状維持とされ、太陽光と風力を中心とする再生エネルギー(再エネ)の割合は高く設定されました。
その上で、石炭、石油、そしてLNG(液化天然ガス)の割合が、いわば帳尻合わせのような格好で決まったという事情があるのです。そこで7次計画では、日本国内のエネルギー需要や脱炭素への取り組みの実態を踏まえ、より現実的な電源構成、エネルギー構成が考慮されていくべきだと考えています。