『エネルギー・トランジション 2050年カーボンニュートラル実現への道』(白桃書房)は、日本の火力、原子力、数々の再生可能エネルギーなど各種エネルギーの現状と課題から、日本が脱“二酸化炭素”社会を実現するための政策まで、広範かつ具体的に論じた書籍だ。著者の橘川武郎(きっかわ・たけお)・国際大学学長は日本経営史、エネルギー産業論を専門とし、主義主張にとらわれない現実的な解を提示するスタイルで多くの支持者を集めている。
同書の結論として示された、日本が2050年までにカーボンニュートラルを実現するための3つのポイント、「1:需要側からのアプローチ」「2:熱電併給」「3:担い手としての地域」について橘川氏に聞いた(前編/全2回)。
■【前編】日本の最大の問題は「需要側の視点」が抜けていること 国際大学・橘川武郎学長が語る脱二酸化炭素社会(今回)
■【後編】DX、AI、ブロックチェーン、そしてEV…国際大学・橘川武郎学長が構想する「エネルギーの地産地消」とは?(2024年11月7日(木)AM6:00公開予定)
「カーボンニュートラル」「脱炭素」の意味を正しく理解する
――2020年10月に菅義偉首相(当時)が所信表明演説で、「日本は2050年までにカーボンニュートラルを達成する」と宣言し、2021年4月には気候変動サミットで同じく菅首相が「2030年度の温室効果ガス排出量の削減目標を、2013年度比で従来の26%から46%に引き上げる」と表明しました。これらを受けて21年10月に岸田文雄政権が「第6次エネルギー基本計画」を閣議決定し、その後も「GX(グリーントランスフォーメーション)推進法」「GX脱炭素電源法」など、脱炭素を目指す政策が次々と施行されています。
それらの政策で2050年の目標をどうやって実現していくか、を論じた『エネルギー・トランジション』(白桃書房)では、カーボンニュートラルを実現するために「需要側からのアプローチ」「熱電併給」「担い手としての地域」という3つの視点が欠かせない、と指摘しています。それぞれ具体的に何を行うべきなのでしょうか。
橘川武郎・国際大学学長(以下敬称略) この話をする際には、まず「カーボンニュートラル」という言葉の説明が少し必要だと思います。
カーボン、というのは炭素のことで、カーボンニュートラルは「脱炭素」とよく訳されますけれど、炭素が使えなくなったら人類は生きてはいけません。これは正確には「脱二酸化炭素」 のことです。英語なら正しくは「カーボンダイオキサイドニュートラル」。二酸化炭素は温室効果ガスの大半を占めるとされていますが、その他にもメタン、一酸化二窒素、フロンなどがあります。
脱二酸化炭素、カーボンダイオキサイドニュートラル、と名前が長くなると舌を噛みそうですし、通りが悪くなるので、脱炭素、カーボンニュートラルという、いわば略称を使っていることを覚えておいてください。
もう一つ、なぜ「カーボンゼロ」ではなく「カーボンニュートラル」が目標になっているのか。ここもよく誤解されていますが、カーボンニュートラルの世界になったら二酸化炭素の排出がゼロになるかというと、そんなことはあり得ない。人間をはじめ動物が生きてる限り、呼吸すれば二酸化炭素が大気中に出るわけですから。
カーボンニュートラルというのは排出量をゼロにするということではなく、出てくる排出量と同じだけ吸収ないし回収して、差し引きゼロにして増えないようにする、という意味です。ここまでを理解していただいたところで、話を進めようと思います。