国際大学学長 橘川武郎氏(撮影:宮崎訓幸)

 日本は世界に向けて「2050年までにカーボンニュートラルを達成する」と宣言し、2021年10月に岸田文雄政権が「第6次エネルギー基本計画」を閣議決定。その実現に進み出した。しかし、具体的な方策については、原子力の扱いや再生エネルギー比率の引き上げなど、まだまだ手探り状態だ。

 日本のエネルギー政策の課題と戦略・戦術を広く論じた『エネルギー・トランジション 2050年カーボンニュートラル実現への道』(白桃書房)の著者、国際大学学長の橘川武郎氏は、カーボンニュートラルを実現するためには「需要側からのアプローチ」「熱電併給」「担い手としての地域」という3つの視点が欠かせない、と指摘する。「需要側からのアプローチ」を解説した前編に続き、後編では残る2つの視点について聞いていく(後編/全2回)。

【前編】日本の最大の問題は「需要側の視点」が抜けていること 国際大学・橘川武郎学長が語る脱二酸化炭素社会
■【後編】DX、AI、ブロックチェーン、そしてEV…国際大学・橘川武郎学長が構想する「エネルギーの地産地消」とは?(今回)

中小企業、公共施設、家庭が脱炭素の有力な担い手に

──前編では3つの視点の中の「需要側からのアプローチ」についてお聞きしました。「カーボンニュートラル」「脱炭素」というのは電力会社やエネルギー産業といった供給側の問題だと思っていましたが、炭素税を通して電力の需要側である企業や家庭の問題にもなってくるわけですね。続いて、「熱電併給」「担い手としての地域」の視点が必要というのは、どういうことでしょうか。

橘川武郎・国際大学学長(以下敬称略) 「需要側からのアプローチ」と深くつながる「担い手としての地域」の話から始めましょう。

 今言われたように、カーボンニュートラルというとやはり供給側から考えますし、その担い手はイノベーションを起こせる大企業だろうと皆さんが思っています。政府の補助もそこに入っていく。しかし、需要側からもカーボンニュートラルを考えていくと、1つ1つの中小企業や商店、病院、学校や各家庭も重要です。それらは規模が小さいのであまり意識されていないわけですが、数がものすごく多いので、まとめれば大きな効果を生み出せる。

 そのためにはどうしても地域コミュニティーでつながることが欠かせません。言い換えますと、地方自治体くらいの単位がボトムアップでカーボンニュートラルに取り組むことは、大企業がイノベーションを起こすのと同じくらい大事、ということです。

――エリア内の企業、商店、家庭が別々にカーボンニュートラルに挑んでも、限界があるのではないでしょうか。