カスハラが「増えた」本当の理由

 まず第1のわかりやすい要因は、SNSやスマートフォンといった情報通信機器・ツールの発達である。加害者側が店員や職員を動画などで「晒す」といった暴露的な脅迫や、その場での本社への通報、長時間にわたる電話での悪質クレーム、また口コミサイトへの書き込みの容易さなどは、苦情行動全体のコミュニケーション・コストを下げている。そうした情報環境の変化によって、カスハラそのものが変化したり、起きやすくなったりしてきたのは疑いない。

 2つ目に、サービス事業者サイドは認めにくいだろうが、昨今のサービス業全体の人手不足によるサービス品質の低下だ。現在のようにどこの現場でも人手が足りなければサービス提供に時間がかかったり、接客の丁寧さは失われたりするのは当然だ。また、シフトに入れる人数の問題だけではなく、サービスの質の高い優秀な人材を集めることも難しくなる。

 そうした「質と量」の両側面から、顧客との間でコミュニケーションの齟齬や小さなトラブルが現場で起きやすくなってきているのは間違いないだろう。

 3つ目として、社会全体の孤独・孤立化の傾向があげられる。「ローン・ウルフ型」(一匹狼型)犯罪と呼ばれるが、周りの支援や監視の目がない孤立状態にある人のほうが、犯罪や苦情行動を行う傾向が強いことはこれまでも指摘されてきた。

 日本は世界から「孤独大国」と呼ばれるほど孤立化が進んだ国であるが、近年はさらに、未婚率の高まり、コロナ禍による疎遠化、他者とのコミュニケーションを必要としない各種ネットサービスの発達により、他者との活発な交流のある個人が減ってきていることが考えられる。