増えたカスハラの「着火点」

 今あげたような要素をカスハラの「火種」とするならば、そもそもの「着火点」が増えたことも挙げられる。

 周知のとおり、日本全体のサービス産業化は伸長している。ドラッグストアもスーパーもコンビニも、人口減少を前にしても大量に出店され続けた。それはつまり、カスハラの「現場」が増えたことを意味する。

 そして、そこに高齢者の社会活動の活発化が重なる。医療の発達と健康寿命が延びることによって、アクティブな高齢者は年々増えてきた。そうした中で負の現象も当然出てくることになる。例えば、高齢者犯罪だ。

 高齢者の刑法犯検挙人員は、平成10年代に大幅に増えたが、中でも増えてきたとされるのが、暴行やその他の「対人」犯罪である。平成22年の『犯罪白書』*1によれば、1990年からの約20年間で、高齢者犯罪は暴行がなんと約52.6倍、傷害で約9.5倍、窃盗で約6.8倍と急激に増加したことが指摘されている。

*1法務省「平成22年版犯罪白書」 

 近年では高齢者の検挙人員は微減傾向にあるが、若年はさらに大きく減っているため、高齢者の割合は急上昇している。令和5年の法務省『犯罪白書』*2は、刑法犯の検挙人員に占める65歳以上の高齢者比率は、平成5年には3.1%であったが、令和4年は23.1%となったことを指摘している。これらが「老害」問題への注目につながっているだろう。

*2法務省「令和5年版犯罪白書」 

刑法犯 検挙人員(年齢層別)・高齢者率の推移(総数・女性別)

 高齢者の健康寿命は周知のように延び、社会活動が活発化していく中でサービス職と接触する機会が増えていれば、高齢者によるカスハラ発生の蓋然性が上がって当然である。先ほどのような「火種」と、「着火点」が掛け算されていると考えれば、カスハラ現象への眼差しも対策も変わってくる。