カスハラは本当に「老害」問題なのか??

 もう少しデータを追えば、カスハラは、高齢になるほど「加害者」割合が高くなり、若いほどに「被害者」が多い。「高齢者が加害者になりやすく、被害者は若年層に多い」という年齢による非対称性は鮮明だ。

 こうした状況において、この問題は「老害」的な高齢者問題の一つとして取り上げられることも多い。巷に増えた「迷惑な老人」の一端としてカスハラがある、という取り上げ方である。この「老害」としてのカスハラ問題について、ここでは立ち止まって考えたい。

若者はカスハラに「厳しく」なったのか?

 先ほどの年齢の非対称性と増加傾向についてもう少し分解して考えてみると、大きく2つの可能性が考えられる。1つ目は、高齢化が進んだことによって単純にカスハラが多くなったこと。そして、2つ目に、若い層が「カスハラに厳しく」なり、今までは問題にならない些細なことがカスハラとして問題化しはじめた、という可能性だ。まずは、2つ目の若年層の意識変容の可能性から考えてみたい。

 パーソル総合研究所は、従業員側の意識を探るため、具体的なエピソードを見せ、それらがカスハラに当てはまると感じるかどうか判定してもらうという実験的なリサーチを行った。あくまで文章上での判断にはなるが、具体的なシーンに対するカスハラへの感受性を見ることができる。

 例えば、「馬鹿でもお前の会社は働けるんだな」といった嫌みを言われる」「職場に1時間以上居座って文句を言われる」という状況は、人によっては「お客のよくある小言」として流す程度の問題だろうし、逆に、「完全にカスハラにあたる」と考える人もいる。そうしたカスハラへの「感度」を測定してみたのだ。

 調査の結果、こうしたカスハラへの感度は、男女ともに20代と60代がやや低い、という傾向が見られた。つまり上記のシーンをカスハラと感じる割合が低いということだ。しかも、職業や企業属性などの効果を調整すればこうした年代の効果もほとんど消える。

 つまり、カスハラへの感受性は世代によって特に大きく違うわけではない。この結果を見る限り、「若年世代がカスハラにだんだん敏感になっている」といった単純な世代効果は確認できない。これはカスハラを取り巻く時代診断として押さえておきたい点であろう。

 では、なぜカスハラが増えてきたのだろうか。私見では、それは「高齢化」の一言では片づけられない、次のような複数の要因が考えられる。