
戦禍に苦しむ国に資源をよこせなどとは、まるで漫画「ドラえもん」に出てくるジャイアンだ。
1930年代から40年代にかけて、アジアの某帝国が石油や鉄鉱石などの資源を得るために戦争をしたことがある。
しかし今回、資源をよこせと言っているのは、なんと、その帝国を圧倒的物量と経済力で叩き潰した天下のアメリカ合衆国なのだ。
太平洋戦争の経緯を思い起こすと、日本人として大変複雑な感情を抱かざるを得ない。
米国の資源の豊かさは、世界有数である。
石油もガスもある。米国では白金族、モリブデン、ベリリウム、ジルコニウム、レアアースとレアメタルも採掘されている。
皮肉なことに、米国のレアアース資源は中国には劣るものの、ウクライナと比べれば圧倒的に巨大である。
どうして、あの豊かな米国が、哀れなほどの資源貧国の大日本帝国みたいな真似をするのか。筆者にはさっぱり分からない。
しかし、それより先に筆者の頭を最初に過った疑問があった。「あれ? ウクライナにレアアースなんてあったっけ?」というものだ。
ウクライナの金属資源
ウクライナで有名な金属資源といえば、クリバスの鉄鉱石であろう。ドンバスの原料炭との組み合わせで、ウクライナに鉄鋼産業を発展させた。
その次に知られているのは、チタン鉱石だ。
ウクライナのチタン産業は、必ずしも発展しているとは言い難い。それでもチタン業界では、ウクライナはチタン鉱石の産地というのが共通認識である。
レアアースは、この1か月ほどで突如として出てきたもので、これまでほとんど耳にしたことがなかった。
ウクライナの金属資源で採掘実績のあるものは、鉄鉱石、マンガン鉱石、チタン鉱石、ジルコニウム鉱石、ウラン鉱石、ニッケル鉱石、アルミニウム鉱石、水銀鉱石、アンチモン鉱石である。
このうち、水銀鉱石とアンチモン鉱石は大昔に採掘をやめている。ニッケル鉱石とアルミニウム鉱石も、最近の採掘実績は確認できない。
ウラン鉱石は2021年の時点でほぼ採掘停止状態になっていた。
ウランを採掘していたスヒード・ゴク社は経営不振のようであった。廉価にウランを回収できるインシチュ・リーチング法が利用できない鉱床なので、鉱床の経済性に限界がありそうだ。
ウクライナで現役と言える金属資源は、鉄鉱石、マンガン鉱石、チタン鉱石のみである。
強いて挙げると、チタン鉱石のオマケで付いてくるジルコニウム鉱石が加えられようか。ウクライナでレアアースが採掘された実績はない。
鉄鉱石の鉱床は立派なものだ。ソ連時代からウクライナに製鉄業を発展させてきた。
しかし、開戦前でも、鉄鉱石の生産量はオーストラリアの10分の1程度であった。世界シェアは3%以下であった。
ソ連の鉄鋼業を支えてきたイメージがあるが、ウクライナの鉄鉱床はロシアよりも小規模である。
マンガン鉱石もウクライナにとっては貴重な資源だが、世界の中では突出した存在ではない。
その生産量は南アフリカの数十分の一で、世界シェアも3%を超えることはなかった。
チタン鉱石は、鉄鉱石やマンガン鉱石と比べると存在感があった。それでも、世界の採掘量に占める割合は最大で7%程度。決して、ウクライナは突出した産地ではなかった。
また、チタン鉱石は物量が少なく、経済規模は小さい。
日本のような本格的な貧資源国から見れば、ウクライナは金属資源大国かと誤解しやすい。しかし、世界の大資源国と比較すると大きく見劣りするのが実態だ。
なお、占領下に入ったウクライナ東部の資源らしい資源は、石炭くらいではないだろうか。
図表2 ウクライナの金属鉱石採掘量と金属製品生産量

表の注: 2025年2月時点で、ウクライナの金属産業は戦争の影響で生産が壊滅的被害を受けている。
戦争影響のない状況で評価しなければ、産業的実力の評価とならないため、開戦前の状況をまとめた。
なお、ウラン鉱石のように開戦前から生産量を減らしていた品目も存在するので、戦争終了後、必ずしも本表の生産量を回復できるわけではない。
ソースは以下のとおり
鉄鉱石採掘量 USGS(2021)
チタン鉱石採掘量 USGS(2021)*ルチルとイルメナイトの合計
マンガン鉱石採掘量 USGS(2021)
粗鋼生産量 フェロアロイハンドブック2022
スポンジチタン生産量 USGS(2021)
フェロシリコマンガン生産量 フェロアロイハンドブック2022
フェロマンガン生産量 フェロアロイハンドブック2022
フェロニッケル生産量 フェロアロイハンドブック2022
リサイクル鉛地金生産量USGS、JOGMEC鉛マテリアルフロー
アルミニウム線 報道
ウラン採掘量 World Nuclear Accociation