
アメリカは関税によって1日あたり20億ドルを得ている──。
この4月8日のドナルド・トランプ大統領の発言は事実なのか。独立・非営利のファクトチェック・サイト、PolitiFactは貿易統計を確認し、複数の専門家に取材した結果、実際の収入は10分の1にも満たないことを示した上で「不正確」と判定した。
PolitiFactは2007年の創設以来、こうしたファクトチェックを毎日行い、2009年にはピューリツァー賞を受賞するなど高い評価を得ている。政権トップが明らかに事実ではないことを口にして憚ることなく、SNSのひろがりによって真偽不明の情報が急速に拡散する時代、ファクトチェックの意義とは何か。PolitiFact筆頭記者であるルイス・ジェイコブソンさんに聞いた。(聞き手:草生 亜紀子、フリーライター)
トランプ政権の誕生で位置付けに変化
──PolitiFactの筆頭記者として、今の時代をどう表現しますか?
ジェイコブソン:「真実を見つけるのが難しい時代」です。控えめに言って(笑)。世界全体のことは言えませんが、少なくともアメリカ政治において、「真実」と「真実の不在」が今ほど政治議論の中心になったことはありません。
私がPolitiFactで働き始めた2009年、ファクト(事実)はもちろん重要でしたが、今ほど政治の焦点ではありませんでした。ところがその後、とりわけ第一次トランプ政権の頃から位置付けが変わってきたのです。
トランプはとにかくいろんなことを言います。「腰だめで撃つ」という表現がありますが、まさにそれ。歴代大統領と違って、思いつくことを何でも口にする。そもそも概してアメリカの政治家は誇張したり、スピンをかけたり、都合のいい事実だけを語ったりしがちですが、近年その傾向が強まっています。
背景にあるのがソーシャルメディアの広がりです。フィルターがない。誰でも何でも発信できて、瞬時に何百万もの人に拡がっていく。不正確な情報はあっという間に広まるけれど、精査して正確な情報を流して正すまでには時間がかかります。その間にも不正確な情報は拡散していきます。
──議会専門誌など伝統的なジャーナリズムの世界で働いた後、PolitiFactに加わったとき、ファクトチェックが現在のように政治の主流に躍り出ることは想像していましたか?
ジェイコブソン:いいえ。PolitiFactに入ったのは創立から2年で、当時、私自身PolitiFactが何をしているのか深くは知りませんでした。
PolitiFactはペンシルベニア大学のFactCheck.orgに次いでアメリカで2番目に古いファクトチェック組織です。ワシントンポストが「ファクトチェッカー」を始めたのは私たちの後でした。
以来、ファクトチェックは一般化して、今では大統領候補者の討論会など大きな政治イベントでは、ファクトチェック・チームがリアルタイムで政治家の発言の真偽を検証するのが当たり前になっています。
──PolitiFactの仕事を簡単に教えてください。