(川上 敬太郎:ワークスタイル研究家)
日本の解雇規制は世界の中では緩い方に位置づけられる
実質的に日本の首相を選ぶことになる自民党総裁選の火ぶたが切られました。立候補者たちが掲げる政策が注目される中、河野太郎デジタル大臣はテレビ番組で、「解雇規制の緩和を検討すべきか」というインタビュアーの投げかけに「必要だと思う」と応じて話題になりました。
同じく立候補者の一人、小泉進次郎元環境大臣も解雇規制の見直しに取り組むと言及しています。小泉氏の主張は主に大企業からスタートアップへの人材移動をイメージしていて河野氏の主張とは異なる点も見られますが、硬直的な労働市場を流動化させる方向へかじを切ろうとしている点は共通しているようです。
日本は解雇規制が厳しいと言われます。ところが、OECD(経済協力開発機構)が発表している雇用保護指標では2019年時点で37カ国中25位です。むしろ解雇規制が緩い方に位置づけられています。労働市場の流動性を高めるには、本当に解雇規制の緩和が必要なのでしょうか。
解雇規制はとてもデリケートな問題です。会社に勤める社員からすると、解雇は恐怖でしかありません。解雇された日から収入が途絶え、日々の生活が脅かされることになるからです。さらに、家族も路頭に迷わせることになります。社員にとって解雇とは、その先の人生を奪われると言ってもいいほど重いものです。
一方、会社にとって社員の退職はそこまで重くはありません。もちろん長くいてほしい優秀な社員が辞めてしまうのは痛手ですが、それで会社が倒産してしまうほどのダメージを受けることは極めてまれです。社員の能力などによる個人差はあるものの、頭数だけで考えれば、100人雇用している会社なら100分の1のダメージでしかありません。
いまは人手不足であり、少子化によって今後も人口は減少の一途をたどっていきます。するとそれだけ人材の希少価値は上がるため、会社としては1名の退職から受ける影響が相対的に大きくなっていくでしょう。
ただ、それでダメージが100分の1から100分の100になるわけではなく、引く手あまたの一部社員を除き、会社の方が社員より強い立場であることに変わりはありません。