もっとも問題になるのは「解雇の合理性」を巡る解釈

 解雇については、労働契約法16条で以下のように記されています。

〈解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする〉

 この表現を裏返せば、社会通念上相当で客観的に合理的と認められるなら解雇してよいということです。さらに、労働基準法20条には以下のようにあります。

〈使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない〉

 さらには、経営難や事業の縮小などを理由に人員削減する場合の整理解雇には4要件があるとされ、厚生労働省が公表している労働契約の終了に関するルールには以下のように記述されています。

(1)人員削減の必要性
人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること
(2)解雇回避の努力
配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと
(3)人選の合理性
整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること
(4)解雇手続の妥当性
労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うこと

 これらの手続きさえクリアすれば解雇できてしまうのならば、確かに日本の解雇規制は厳しいとは言えなさそうです。きちんと手順を踏み、30日分の賃金に相当する手当てを払うなどすれば解雇できてしまいます。

 しかし、手続き上はそうでも問題になるのが、労働契約法16条にあった「解雇の合理性」を巡る解釈です。この点はあっせんや労働審判、裁判などで争うことになります。

 仮に会社側が主張する理由が事業縮小による人員削減だった場合、事実であれば合理的と言えるようにも思えます。しかしながら、日本の雇用システムの基本はメンバーシップ型です。それは、担当する職務ありきで契約するジョブ型とは違い、会社組織のメンバーとして所属する、人ありきの契約に他なりません。

 すなわち実質的には就職ではなく“就社”と表現した方がよい契約であり、会社側は強い人事権を行使して社内のあらゆる部署、職務に社員を異動させられる権限を持っています。

 その半面、会社は解雇が必要と感じても、他の部署や職務へ異動させるなどしてできる限り雇用維持を図る責任も負っています。事業縮小なのだから仕方がないと解雇したものの、他の仕事をあてがう努力が十分と見なされなければ、会社としての責任を果たしておらず合理的ではないと判断される可能性があります。

解雇規制の緩和で解雇は増えるのか?解雇規制の緩和でクビになる人は増えるのか?(写真:NOBUHIRO ASADA/Shutterstock.com)