金銭解決を含む「解雇ルールの整備」に取り組む必要性

 解雇規制の緩和ではなく、解雇ルールを整備して、職務や勤務地などを限定する代わりに解雇の合理性を判定しやすい無期雇用社員を明確に位置づければ、就社型の正社員よりも流動性が高く、かつ非正規社員より安定した雇用形態が生まれます。

 ただ、無期雇用であるにもかかわらず解雇される社員側は人生が奪われるほどの影響を受けます。その点、ダメージの大きさを考慮した相当額の補償を前提にすれば、金銭解決ルールの導入は有効な手段になりえます。

 厚生労働省の個別労働紛争解決制度の施行状況によると、令和5年の解雇に関する相談件数は3万2944件。しかし、あっせんが申請された件数は793件、労働審判の新受件数は1658件にとどまります。

 合理性に疑義がある不当解雇が行われても、相談しただけで大した金銭保証もなく、泣き寝入りしたケースがたくさん埋もれている可能性を否定できません。

 さらに、相談すらされていないケースもかなりありそうです。解雇の合理性を巡って会社と争うことは、工数的にも精神的にも社員に大きな負荷がかかり、裁判となれば金銭的負担も生じます。

 すでに、経済界は終身雇用の継続は難しいと言っています。金銭解決を含む解雇ルールの整備に取り組むことで、新たな無期雇用の選択肢が生まれ、次の仕事が見つかりやすい流動性の高い労働市場が構築され、何の補償もなく不当解雇されている人たちの泣き寝入り防止にも寄与することになるのではないでしょうか。

【川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう)】
ワークスタイル研究家。男女の双子を含む、2男2女4児の父で兼業主夫。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約5万人の声を調査・分析したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」等メディアへの出演、寄稿、コメント多数。現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。