いつまでも労働市場を硬直化させている「就社型の正社員」

 解雇の合理性判断のハードルを高くしているのが就社的な考え方に基づく、いわゆる正社員と呼ばれる雇用形態です。会社の一員として所属する契約なので、雇用期間が無期である一方、職務や勤務地なども無限定であることが基本になっています。

 正社員は会社の強い人事権に従うことを義務づけられ自由を奪われることになりますが、懲戒解雇に相当するなどよほどのことでもない限り、会社の一員として雇用は安定的に維持されます。

 ここまでを整理すると、手続き上の解雇規制は決して厳しくはないものの、解雇無効が争われれば会社側の合理性が認められる幅は狭く、明確な基準もないため解雇に踏み切ることが難しいということです。

 社員との関係性が「社員の片思い」や「反目」の状態になっても解雇に踏み切りづらいとなると、会社は慎重になり採用間口を狭めざるを得ません。その結果、労働市場は硬直的になります。日本の労働市場は流動性が低いと言われる大きな要因がそれです。

 近年、職務を限定したジョブ型と呼ばれる人事システムが多くの会社で導入され、政府もそれを推奨すべく事例を集めた「ジョブ型人事指針」を公表しました。しかし、就社型の正社員が認識のベースだと、解雇の合理性が認められる余地は狭く労働市場も硬直的なままです。

 労働市場の流動性を高めるには、無期雇用=就社型の正社員一択という呪縛を解き放ち、採用間口を広げる必要があります。無期雇用でも職務限定なら、事業縮小などでその職務が不要になった際は所定の手続きを踏むことで解雇の合理性が認められるよう解雇周りのルールを整備すれば、就社型の正社員とは別の、無期雇用の新たな選択肢を提供することができます。

 一方、いわゆる非正規社員は流動性が高い雇用形態です。有期などスムーズに契約終了できる雇用形態は採用に失敗しても社員を入れ替えやすいので採用間口も広くなります。