生まれという初期条件によってもたらされる「教育格差」。ここにスポットライトを当てた京都大1年生の授業が、2024年度前期に開かれた。高校までの日常・学校生活を振り返り、そこに潜む教育格差の存在に気づくことで、京大生たちは何を学んだか。今回のお題は、実際に京大入試に導入される“女性枠”。学生たちのディスカッションを「実況中継」風に紹介する。
<第1回>なぜ、親が大卒だと子も大卒に?京大生が教育格差を考えた…「3DS買ってもらえなかった」にみる階層再生産の子育て
<第2回>「どの高校に行くか」は、実は「生まれ」が決めている…“特殊すぎる”京大生「高校あるある」から教育格差を考えた
<第3回>「学歴はあなたを守ってくれるよ」京大生が受けた進路指導での“洗脳”、成績上げた学生と違和感抱いた学生と…
<第4回>「給与がよくなる」から大学進学?大卒なら高卒の1.4倍…京大生が考えた、進路指導に金銭的利益を用いることの功罪
<第5回>「男子トイレだけ扉なし」「性教育は男女別」そこに潜む隠れたカリキュラムとは?京大生が経験した学校のジェンダー
(岡邊 健:京都大学大学院教育学研究科教授)
女子学生の割合は教育学部53%、理学部8%
京大の全学部学生に占める女性の割合は2割強である。ただ、女性割合は学部によって大きく異なる。図1に示すように、女性が過半数を占める学部もあれば、工学部や理学部のように、女性が1割程度しかいない学部もある。
教科書『現場で使える教育社会学──教職のための「教育格差」入門』の11章では、全国の大学の学科別の女性割合が示されている。人文科学は65%、保健は63%で、女性の割合が高い。一方で、理学は28%、工学は16%。理工系の女子学生が極端に少ない状況は、京大などの難関国立大学に限った話ではない。
「女性募集枠」京大公式サイトの説明
そのようななかで、京大は2024年3月、入試に女性募集枠(以下「女性枠」と記す)を導入すると発表した。
大学のウェブサイトには、次のような告知文が掲げられている。
本学は、対話を根幹とした自学自習という教育理念を踏まえ、様々な属性や背景を持つ学生たちが互いに存分に語り合い、議論をしながら学びを深める環境を実現するために、キャンパス構成員の多様性を十分に確保することが極めて重要であると考えています。
しかしながら本学には、学生中の女性比率が著しく低い学部があります。このような学部ではそのインバランスを早急に解消しなければなりません。また、本学が世界と伍する大学として活躍するためにも、ダイバーシティ&インクルージョンを推進し、多様な視点を取り入れることは望ましい教育環境の構築のため不可欠です。
このことから、本学では、2026年度入学者選抜から、理学部と工学部の特色入試において、女性募集枠を新たに設けます。(以下略)
特色入試とは、高校までの学修の成果をふまえて、書類審査、論文や面接などによる試験を組み合わせて入学者を決める選抜方法のことだ。導入される女性枠は、この特色入試の中に設けられ、内訳は理学部15人、工学部24人。一般選抜の募集人数を減らして新設される。
第3講のディスカッションの後半のお題は、この女性枠についてだ。議論は白熱した。以下、一部始終をご覧いただこう。