京大新入生が考える「教育格差」。今回の授業のテーマは、大卒と高卒の賃金格差に着目した進路指導について(写真:yu_photo/Shutterstock.com)京大新入生が考える「教育格差」。今回の授業のテーマは、大卒と高卒の賃金格差に着目した進路指導について(写真:yu_photo/Shutterstock.com)
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 2024年度前期、京都大で「教育格差を考える」と銘打ったゼミ形式の授業が開講された。子ども本人が変えることのできない「生まれ」(保護者の学歴、出身地域、性別など)によって最終学歴などの教育の結果に生じる差=「教育格差」がテーマ。担当の岡邊健教授(教育社会学)が京大1年生を対象に、教育格差の実状を学び、その存在に敏感になってもらうことを目的に開講したという。有力進学校の出身者が多くを占める京大生は、ある意味で教育格差の象徴的存在ともいえる。彼らは自らの教育体験をどのように振り返り、いかなる観点から教育格差について考えを巡らせたのか? 岡邊教授が8回にわたり、この授業の一部始終を「実況中継」風に紹介する。

<第1回>なぜ、親が大卒だと子も大卒に?京大生が教育格差を考えた…「3DS買ってもらえなかった」にみる階層再生産の子育て
<第2回>「どの高校に行くか」は、実は「生まれ」が決めている…“特殊すぎる”京大生「高校あるある」から教育格差を考えた
<第3回>「学歴はあなたを守ってくれるよ」京大生が受けた進路指導での“洗脳”、成績上げた学生と違和感抱いた学生と…

(岡邊 健:京都大学大学院教育学研究科教授)

高卒と大卒の給与格差は開いている

 第2講のディスカッションのお題は、2つあった。2つめは次のとおりである。

(B)高校教員が私的内部収益率の知識を持つことの意味、その知識を用いる際の注意点を挙げてください。

 教科書『現場で使える教育社会学──教職のための「教育格差」入門』の10章では、さまざまなデータが紹介されているが、なかでも鍵となるのが「私的内部収益率」だ。以下、簡潔に説明しよう。

「高卒に比べて大卒の生涯賃金が高い」と聞いて、読者の皆さんはどう感じるだろうか。もしかしたら、「誰でも大学に行ける時代になったから、大卒の価値は下がったのでは?」と感じている人もいるかもしれない。

 正解はこうだ。

 平均の金額でみれば、今も昔もまちがいなく、高卒者と比べて大卒者の給与は高い。国の統計をひもとけば、1980~1990年代に比べると、2000年代後半以降はむしろ、両者の間の給与格差が大きくなっている。

 最新のデータでは、平均的にいって大卒の人(大学院卒を含む)は高卒の人の1.4~1.5倍程度の給与を得ているのだ。