「大卒の方がお得」データをどう活用すべきか?

 収益率という抽象的な概念を、高校の進路指導と結びつけて考える──想像力と思考力が問われるこのお題に、京大生はどう対峙したのか。以下、ディスカッションのつづきをご覧いただこう。

岡邊:では、お題(B)のほうに、いきましょうか。

しゅんすけ:内部収益率を知ることのメリットから言わせてもらうと、大学進学して就職したら高収入で安定っていう、何となくのイメージを持ってる人が、世の中にいっぱいいると思ってて。学校の先生もそういう道を歩んでるわけだから、例外じゃないと思うんです。

 そういう漠然としたイメージじゃなくて、根拠、データに基づいて進路指導が行えるようになるんじゃないかと。ただ、数値を高校生に提示する必要はないと思います。先生が自分の中で知って、ある程度理解しておくことが大切では。

教育格差を議論した京大の教室教育格差を議論した京大の教室
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けんた:やっぱり、大学に行ったほうが将来高い収入を得られるよっていうデータだけを高校生に与えると、じゃあ大学行ったほうがいいんじゃん、みたいな考えに誘導してしまう。

 例えば、介護の道を志してる男子にこの情報を見せたら、介護の専門学校に行くっていうことは、将来の収入から見たらマイナスなんだってイメージを植え付けてしまって、進路に自信をなくしてしまうと思うんです。

 高校生の進路が、全員大卒希望ってわけじゃないと思う。本人の希望を尊重する必要があると思います。

岡邊:反論、ありますか?

こうき:この値でマイナスなところだと、将来、その道行った時に収入が少なくて後悔することも、たぶんあると思うんです。そこのところをどうするか。

岡邊:けんたさん、そういう反論があり得ると思うんだけどね。「いや、こんなはずじゃなかった」と。10年後、「あの時、先生、もっと大学のメリットを教えてくれれば良かったのに」と言われるかもしれない。

けんた:何となく、取りあえず専門学校ぐらい行っとけば、将来何かしらの仕事には就けるだろうみたいに、漠然とした思いで行こうとしている場合。進路に対する熱意を試すというか、そういう意味がこのデータにあるかもしれない、うちの班ではそんな意見が出ました。

大学「行くか、行かないか」迷っている人には有効なデータ

岡邊:進路への熱意があまりない場合、多少誘導することは許容できるけども、「どうしても介護の仕事に就きたいんだ」と言ってる人に対して、「いやいや、介護、そんな安定した仕事じゃないよ」みたいな言い方は良くないと、そんな話かな?

けんた:そうです。

ゆうだい:悩んでるとか、何となくみたいな人が、自分の高校でも多くいて。あと、「○○大学、行こう」と誰かが言うと、「じゃあ俺もそこ行こうかな」とか。多分これ、どの高校にもあると思ってて。

「俺もそこ行こうかな」っていうだけだと、「こんなはずじゃなかった」ってなり得る。他の人に流されたり、親の言うことだけ聞いて、そのとおりにしますって考えて、自分の意思を介さずに進路を決めた人は、何かうまくいかなかった時に、「あの時、言ってくれれば」とか、自分以外のせいにしやすいと思う。

 そういう子に対しては、このデータを示すっていうのは、自分で考えるきっかけになると思いました。

岡邊:大学に進学するのが当然という人、皆さんもそうだったでしょうが、そういう人にとっては、収益率のデータは意味が薄い。

 逆に、大学進学を一切考えない人にも、あんまり意義があるとはいえない。

 一方、迷っている人にとっては、重要な情報になります。皆さん、今、考えてもらっているのは、大学、行くか行かないか迷ってるような人が多い高校で、どんなふうにこのデータが使えるかって話です。

 確かに、人に流されるってありそうですね。また、勉強ができれば、先生からしたら「大学に行けるかもしれないのに」と思うかもしれない。例えばそんな時、この数値が使えるかも。では、この数字の使い方の留意点は?

しゅんすけ:このデータは、あくまで経済的側面しか反映されていないので、生徒の気持ちというか、そういう経済的側面以外のことがちゃんと存在してるよってことに留意して、活用するべきだと思います。