大学に行くことは、金銭的にはかなり「お得」

 ただし、大学に通うにはお金がかかる。また、たとえば4年間大学に通う場合、その間の教育費負担が大きいのはもちろんのこと、その4年間に仕事をすれば得ることのできた賃金を、当の本人はすべて放棄している(これを「放棄所得」という)。

 さらにいえば、学歴による賃金の差は、一般に、年齢が高くなるほど大きくなる。20代のうちは、そう大きな賃金差はないのだ。だとすれば、一生涯を通して考えたときに「大学に行くことは、真の意味で得な選択なのか」という疑問が生じても、不思議はない。

 私的内部収益率(以下「収益率」と略記)は、この疑問に答えるために、教育社会学で用いられる概念である。

 教育費の支払いを個人による投資だと考えて、大卒の学歴を得ることで「平均して将来的にどれだけの利息を得られるか」を数値化したのが収益率で、証券投資の利回りと同じような解釈が可能だ。

 たとえば高卒を基準にした大卒の収益率の計算には、大学の授業料、放棄所得、そして将来にわたって「高卒に比べて大卒の場合に上乗せされるであろう賃金」の数値が用いられる。

 計算には、お金の価値が年を経るごとに目減りすること(たとえば「今すぐもらえる100万円」と「10年後にもらえる100万円」なら、前者のほうが価値は高い)も、考慮される。

 教科書10章の執筆者である日下田岳史氏の、2017年の官庁統計に基づく計算によれば、高卒を基準にしたときの各学歴別の収益率は、以下の表のとおりだ。

 男性の場合、大卒は7%、高専卒は11%。対して専門学校卒はほぼゼロで、教育費に見合うだけの賃金を得ることは期待できない。

 一方女性は、専門学校卒でも、大卒にひけをとらないレベルの収益率だ。女性にとっては、高校卒業後どのような学校に進んだとしても、プラスの利回りが期待できる。


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