(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)
フィギュアスケート男子で五輪2連覇を果たしたプロスケーター、羽生結弦さんが15日、被災地への思いと祈りを込めて、石川・金沢市内で開催された「能登半島地震復興支援チャリティー演技会」に出演した。
実はこの演技会では、会場リンク内に演出のための照明を設けなかった。こだわったのは演技の魅せ方ではなく、制作費を抑えて収益を最大化することだった。チャリティーの目的に忠実でありたいとの羽生さんの思いがあった。
まばゆいスポットライトがなくても関係なかった。なぜなら、羽生さんや仲間のスケーターには、外付けの演出がなくても、真に磨き上げてきた技術と表現力があったからだ。
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こだわった「被災地ファースト」
「能登のためにできることはありませんか」
東日本大震災発生から13年が過ぎた今年3月、羽生さんは故郷の宮城県で座長を務めたアイスショー「羽生結弦 notte stellata 2024」を終えた直後、早くも能登半島地震のためのチャリティー演技会に向けて動き出す。その思いがテレビ金沢に届き、同社主催で演技会の開催が決まった。
羽生さんが演技会に向けて、何よりもこだわったのは、「被災地ファースト」の演技会にすることだった。
そのためにチャリティーであることに主眼を置くことを徹底した。余計な“出費”を抑え、配信視聴のチケットやチャリティーTシャツがもたらす収益を最大化することに努めた。
工夫の一つが、アイスショーのような特殊な照明(スポットライト)を使わず、リンクに常設された照明のみで演技を行うことだった。
「まず、照明(スポットライト)がない状況を考えたのは、なるべく(演技会の)予算を少なくして、ほとんどの(収益の)お金を、チャリティーなので(可能な限り多く)寄付をしたいという思いがありました。そのためには、できる限り、(準備も含めて、演技会の)規模を小さくすることが第一にあって、最終的に制作資金を削減していく中で『照明なし』ということになりました」
そんな中で演じた「春よ、来い」の感想を問われると、こう続けた。
「(照明がないことは)それは、それで見え方も違って、いつも見てくださっている方々にも、いつもとは違った感覚で見ていただけたのではないかと思って、うれしいです」
演技会の翌日、取材にきていた一人と会話をする機会があった。
「昨日の『春よ、来い』は、今までで一番と言っていいくらい、心に響くものがありました。とてもよかったです」
同感だった。
いつものショーのような特殊な照明がないリンクでの舞が、なぜ素晴らしい出来映えに思えたのだろうか。