羽生結弦さんが実施した公開練習 「SharePractice」=2022年8月10日(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

(羽生結弦さんへの単独インタビュー後記を前編から読む) 

 日々のトレーニングやコンディショニングが万全であったとしても、本番ではもう一つの「ハードル」が待っている。それがピーキングをどう合わせるか、である。

 競技者時代はショートプログラム(SP)を滑り、後日にフリーを滑る日程になっている。SPを終えれば、いったん緊張の糸を緩めることができ、フリーに向けて公式練習などで再びピークを合わせていくことになる。

 しかし、単独公演は1日約2時間近くの中で10近いプログラムを一人で滑らなければならない。SPのような短い演目もあれば、フリーのような長いプログラムも、またエキシビションのような曲調も詰め込んでいる。そのすべてに、120%のパフォーマンスのためのピークへどう持っていくのか。これは羽生結弦さんにずっと聞きたかったことでもあった。

(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)

※羽生結弦さんへの単独インタビューは、5月11日発売の「Quadruple Axel 2024 羽生結弦 SPECIAL」(山と溪谷社)で実施した

■羽生結弦さん、単独インタビュー後記
(前編)プロスケーター羽生結弦はなぜ、「単独公演」にこだわるのか…技術で競技者を超え、規格外の表現目指す超一流の境地
(後編)プロスケーター羽生結弦が明かす「単独公演」の舞台裏…2時間で10近いプログラム、「一人で駅伝を走っている感覚」

 羽生さんは「マラソン」と「駅伝」という例を出してわかりやすく説明をしてくれた。

「僕の公演は、マラソンのようにずっと一人で走っているんですけど、実際には、一つずつのプログラムが駅伝の区間のようになっているイメージです。フリーのような長いプログラムもあれば、短い時間のプログラムもあるのですが、すべての曲に、常にベストの状態でぶつかるように心掛けています」

>>【写真13点】羽生結弦さんのプロスケーターとしての技術と表現のすごさを写真で見る

「マラソンのように一人で全部の距離を走っているわけですが、実際にはパートごとにそれぞれを担う『羽生結弦』がいて、それぞれの『羽生結弦』が全力でひとつずつのプログラムを滑っていて、それがすべて合わさったときに一つの『単独公演』という作品になっています」

 羽生さんのイメージでは、「一人で駅伝を走っている感覚に近い」という。

 マラソンのように42.195キロをペース配分して走るのではなく、いくつかの「区間(プログラム)」ごとに、その区間のベストパフォーマンスを常に発揮し、襷を次の羽生結弦へつなぐ。襷を受けた次の区間を担う羽生結弦は、次のパートを120%で演じる。

 積み重ねた先に「単独公演」の完成形が見られることになる。