五輪2連覇を果たし、プロスケーターへ転向した羽生結弦さんは、アスリートと表現者という大きな枠の中で幾多のこだわりを追求し、より高い理想へと進化を続けてきた。脚光を浴びる「単独公演」という舞台にたどり着くまでに、どんな心境で臨み、タフなトレーニングの日々を過ごしていたのか。
5月11日発売の「Quadruple Axel 2024 羽生結弦 SPECIAL」(山と溪谷社)で、著者が担当した単独インタビューの中で、羽生さんが語ってくれた内容の一部を抜粋、編集しつつ、超一流の境地に迫った。
(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)
■羽生結弦さん、単独インタビュー後記
(前編)プロスケーター羽生結弦はなぜ、「単独公演」にこだわるのか…技術で競技者を超え、規格外の表現目指す超一流の境地
(後編)プロスケーター羽生結弦が明かす「単独公演」の舞台裏…2時間で10近いプログラム、「一人で駅伝を走っている感覚」
羽生さんがプロに転向してからの単独公演にスポットを当てて書き進めたい。
2022年7月にプロスケーター転向を表明した羽生さんは、同年11、12月に『プロローグ』、年が明けた23年2月にスケーターとして史上初となる東京ドームでの単独公演『GIFT』、そしてプロ2シーズン目となる同年11月から24年4月にかけ、初のツアー公演『Yuzuru Hanyu ICE STORY 2nd “RE_PRAY” TOUR』を追加開催となった宮城を含めて全国4会場で行った。
>>【写真13点】羽生結弦さんのプロスケーターとしての技術と表現のすごさを写真で見る
羽生さんのプロとしての活動は、フィギュアスケートの競技者(選手)、プロというカテゴリーで棲み分けられた固定概念を覆すところからスタートしている。
従来のフィギュアスケートはざっくりと言えば、ジャンプなどの技術に寄せるのが競技者で、表現面に注力するのがプロという捉え方をされる傾向にあった。しかし、「プロスケーター、羽生結弦」のプログラムは、プロの表現力が高い次元の競技性を包括している。
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競技者時代のプログラムをプロとして滑るときには、ジャンプの難度を落とさずに4回転を当然のように跳び、さらには競技ルールの枠にとらわれることなく、プロだからこそできる規格外のコンビネーションである5連続ジャンプなども披露した。表現面でも、プロジェクションマッピングや映像を駆使したこだわりの演出で、次々と観客の度肝を抜く新たなサプライズを生み出してきた。
一つひとつのプログラムへのこだわりに加え、公演を一つの「作品」としてとらえるために避けて通れないのが、「単独」での完遂だった。