常に120%、「羽生結弦」ブランドへの期待を裏切らない

 羽生さんがインタビューに応じてくれたのは、今年の3月11日で、前日までの3日間は自身が座長を務めた被災地でのアイスショー「羽生結弦 notte stellata 2024」が開催されていた。羽生さんはこのショーの中で毎回、3つのプログラムを滑っている。

 インタビューの中で「実は3つのプログラムを滑るだけでも、めちゃくちゃしんどかったです」と打ち明けていた。常に120%で、会場の期待値を上回ることで、自らのプログラムを通したブランド価値を高めてきた羽生さんにとって、たとえ一瞬でも気を緩めることなく、高い集中力で向き合い続けなければならないからだ。

羽生結弦さんがプロ転向を表明した2022年7月の記者会見(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 そんな中で、なぜ「単独」という高いハードルを飛び越えようとしたのか。たった一人で単独公演を行う決断を下したのか。羽生さんはインタビューの中で、初めての単独公演『プロローグ』誕生の舞台裏をこう明かしてくれた。

「プロになるときに、スケートを続けていくにあたって、『羽生結弦のスケートを見たい』と思ってくださる方々の声が、強く入ってきました。それならば、僕のスケートを見たいと思ってくださっている方に、ずーっと僕のスケートを見ていただける環境をつくれないかなと思ったのが、最初のきっかけですね」

 自らのスケートを求めてくれる人たちがいるのなら、“余白”を取り除く。そのために、全てを自分で演じるという発想だった。とはいえ、単独のプレッシャーはとてつもなく大きく、体調不良によるキャンセルすら許されない。実際、羽生さんは『GIFT』のときには直前に体調不良に苦しめられたが、そんなそぶりをみじんも見せることなく、満員の会場を盛り上げた。