宇野昌磨引退記者会見を終え、引き揚げるフィギュアスケート男子の宇野昌磨(5月14日、写真:共同通信社)

 平昌で銀メダル、北京で銅メダル──。男子フィギュアスケートで五輪2大会連続のメダルを獲得し、世界選手権を2度制覇した宇野昌磨(26歳)が現役を引退し、5月14日、引退会見を開いた。フィギュアスケートを長年ウオッチし、独自の取材を続けるライターの砂田明子氏が、宇野昌磨のアスリートとしての魅力を振り返る。(JBpress編集部)

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周りの力を自分の力に──「ステファンを満足させるという自己満足」

 爽やかで、温かな会見だった。宇野さんは競技に「未練はまったくない」と言い切ると共に、今後はプロとしてフィギュアスケートを続けていくことを表明した。

 宇野さんが競技生活で成し遂げた結果をおさらいしておくと、オリンピックで3つのメダル(個人で銀、銅、団体で銀)、世界選手権で日本男子初となる2連覇を達成、全日本選手権で6度優勝、4回転フリップを世界で初めて成功……と、数々の偉業を達成している。

宇野昌磨世界フィギュア男子で4位となった宇野昌磨のフリー演技(2024年3月、モントリオール/写真:共同通信社)

 宇野さんのスケート人生は、日本でフィギュアスケートブームが高まっていくうねりと重なっている。

 5歳で浅田真央さんに導かれてスケートをはじめ、9歳で生観戦した高橋大輔さんに憧れ、2度のオリンピックに羽生結弦さんと共に出場した。幼いころから注目され続ける中で、長年にわたって結果を出し続けた宇野さんは、紛れもない稀代のアスリートだった。

 しかし、その結果と同じくらい記憶に残るのは、私にとって、宇野さんの唯一無二の人間性だ。飾らず、正直で、自然体。ゲーマーで集団行動が苦手でマイペース、なんだけど、決して人嫌いではなく、むしろどんな人にも平等に親しみを込める。そんな宇野さんは、周囲の力を自分の力にできる、開かれたアスリートだったと思う。

 引退会見でこんな場面があった。

 競技生活の中で、「あの場面を思い出せばこれからも頑張れるような、自分のお守りとなるような場面」を問われたとき、宇野さんは、「(2022年の)世界選手権で初めて優勝したあとの、ステファンが喜んでいる姿」と答えた。ステファンとは、2019年から宇野さんが師事してきたコーチ、ステファン・ランビエール氏である。お守りとなる場面が、自身の演技ではなく、コーチの喜ぶ姿というのは、いかにも宇野さんらしい。

宇野昌磨とステファン・ランビエルコーチGPファイナルで優勝し、出水慎一トレーナー(左)、ステファン・ランビエールコーチ(右)に祝福される宇野昌磨(2022年12月、トリノ/写真:共同通信社)

 ランビエールコーチとの師弟愛はよく知られており、今年(2024)の世界選手権の前に意気込みを聞かれた宇野は、「ステファンを満足させるという自己満足」という言葉を残している。ステファンコーチのために頑張るのではない。ステファンコーチのために滑ることは、イコール自分のためなのだという、宇野さんならではの「他者との素敵な関係性」がここにある。