練習で精神を集中させる羽生結弦さん=2022年の公開練習にて(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)

 プロスケーター羽生結弦さんが座長を務めるアイスショー「羽生結弦 notte stellata(ノッテ・ステラータ)2025」が3月7日から3日間、故郷の宮城・セキスイハイムスーパーアリーナで開催された。羽生さんの代表的プログラムの一つ、映画「陰陽師」の曲を使用した「SEIMEI」を、映画で主演した狂言師・野村萬斎さんと共演。羽生さんと萬斎さんは初対談から10年を経て、ともに被災地でのショーに鎮魂の願いを込めた。

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今回は「安倍晴明」ではなく「従者」役に

 スクリーン中央の上方から安倍晴明を演じる萬斎さんが登場し、孤高のスケーターと狂言師による時空を超えた世界観を描き出す「SEIMEI」が幕を開けた。

 本来の「SEIMEI」は、羽生さんが安倍晴明をモチーフに滑るが、今回は使役する従者を担う。安倍晴明に「天・地・人」の言葉とともに、式神として召喚された羽生さんは2018年平昌五輪で2連覇を果たす原動力となった伝説のプログラムを躍動するように滑った。

「完璧で、不思議な存在である安倍晴明がそこにいるからこそ、式神らしく、完璧ではなく、力を与えられし者のような立ち振る舞いをしなくてはならないなという思いを込めて、ずっと力を入れながら、いつもの『SEIMEI』を滑っているときよりも、一つの役割をフルパワーで滑りました」

 4回転サルコウを鮮やかに跳び、4回転トーループからの3連続ジャンプを決めた。いつものプログラムのように「動」から「動」ではなく、いったん動きを止めた「静」と「動」のメリハリを利かせた中で、難度の高い4回転を一発勝負の本番で跳んでみせた。

「とにかく緊張がすごかったです。威厳のようなものを常に背後から感じながら、決してミスをすることができないというプレッシャーとともに本当にオリンピックかなと思うぐらい緊張しながら滑りました」

 こう振り返った羽生さんは、実は後半の第2部が開演する直前、照明が落ちていない明るいリンクに突如として姿を見せた。サプライズに沸く客席とは対照的に、羽生さんは緊張で張り詰めた表情でリンクを滑っていく。ジャンプを跳び、体の軸を入念に確認する。