
(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)
プロに転向したフィギュアスケーター、羽生結弦さんの新たな単独公演「Yuzuru Hanyu ICE STORY 3rd “Echoes of Life” TOUR」が12月7日、さいたまスーパーアリーナで幕を開けた。今回も、出演、制作総指揮ともに担うアイスストーリーの第3弾は、「命」の意味を問う壮大な物語を氷上に結実させた。
演技要素や得点という“縛り”の中で頂点を目指した競技者として多くの時間を過ごした20代を終え、30歳の誕生日を迎えたこの日はプロスケーターとしての表現の幅をさらに広めた姿を披露した。それを可能にしたのは、綿密に練り上げた構想とこだわり抜いた演出、年齢を重ねても健在な卓越した氷上のパフォーマンスだった。
(後編を読む)>>【詳報:羽生結弦、30歳の舞②】“推し”に圧倒的な“おもてなし”…単独公演の醍醐味はエンディングから始まる
「胃の中の裏と表が反対になりそう」
約2時間50分の単独公演。羽生さんは本編が終わると、大きな拍手が響き、大歓声に沸くリンクに再び登場し、深々と頭を下げた。
「本日はご来場いただきありがとうございます!」
「たくさんの方々が公演を楽しみにしていただいて、プレッシャーや期待、重責を僕はもちろん、スタッフのメンバーみんなで感じながら、ほんとに、ほんとに、時間もエネルギーもたくさん使って創り上げてきました」
単独の演目を連ねて滑るのではなく、いくつものプログラムを連動させて演じつつも、一つの物語として成立させる。プロスケーターの羽生さんが挑むアイスストーリーは、過去に自らが手がけた過去2つの作品以外に「成功モデル」がまだ確立されていないといっていい世界だろう。
だからこそ、初日公演の観客の反応が、今回の最初の評価軸として重要な意味を持つ。
熱を帯びた客席の情景を目にした羽生さんは、安堵の表情でこう語った。
「ほんとに緊張しました(笑)。なんといえば、いいのですかね。胃の中の裏と表が反対になりそうなくらい緊張してたまらなかったです。僕は、まだ映像もきちんと観ていませんが、みんなで一生懸命に創ってきて、『よかったなー』って達成感を強く感じています」
物語の原作(ストーリーブック)は、羽生さん自らが著した「Echoes of Life」だ。