プレミア12で台湾を応援するファン(写真:ロイター/アフロ)

(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)

 野球の国際大会「第3回 WBSC プレミア12」の決勝で、日本代表「侍ジャパン」は大会3度目の対戦となった台湾に0―4で敗れ、2連覇を逃した。現役メジャーリーガーが出場するワールド・ベースボール・クラシック(WBC)と違い、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)が主催するプレミア12は国内での注目度はそこまで高くないとみられていた。だが、決勝は4万人以上の観客が熱戦を見守り、テレビも高視聴率をマークした。

 WBCで日本チームは「打倒・メジャー(米国)」でモチベーションを高めたが、今大会では世界ランキング1位の日本が「打倒・ジャパン」に燃える台湾などから挑戦を受ける立場だった。野球は五輪の正式競技から外れ、北中南米と豪州、東アジアを除けば世界での普及は道半ば。経済や外交の国際競争力では日本の存在感は低下する一方だが、“野球力”では世界を牽引する立場にあることを印象づけた。

罰金を払ってでも日本に勝ちたかった台湾

「選手はよくやってくれた。負けたのは私の責任」

 2026年WBCまで指揮を執ることが決まっている日本代表の井端弘和監督は、決勝の敗戦をこう受け止めた。1次リーグのグループBを5戦全勝し、東京ドームで行われた2次リーグでも3連勝して決勝戦へ1位で通過。しかし、ここまで2戦して負けていなかった台湾との3度目の試合で敗れ、一発勝負の怖さを痛感させられた。

優勝を果たし、喜ぶ台湾チーム(写真:共同通信社)

 日本が国際大会で敗れたのは、前回の2019年大会における2次リーグでの米国戦以来で、主要国際大会での零封負けは09年3月の韓国戦以来だ。19年大会、21年東京五輪、23年WBCに続く、主要国際大会制覇はならず、国際大会の連勝も「27」で止まった。

 台湾は“手段を選ばない”執念で決勝に臨んできた。

 2次リーグの日本戦の直前に決勝進出が決まると、当初に予告された絶対的なエースである林昱珉投手から別の投手へ変更した。台湾が決勝へ進出するには、第1試合でベネズエラ―米国戦での米国勝利が条件だった。

 報道では、台湾は米国リードの時点で投手の変更を申し入れきたという。日本との一戦が消化試合となるため、決勝にエースを温存した格好だ。日本は反発したが、主催するWBSCは、台湾に罰金約2000ドル(約31万円)を科すことで変更を認めた。

 林昱珉投手は18歳で米大リーグ、ダイヤモンドバックスと契約し、マイナーの3Aでプレーする左腕。決勝では、日本の戸郷翔征投手(巨人)と投げ合い、150キロ前後の直球とチェンジアップの緩急を生かし、4回を無失点でチームの勝利に貢献した。

 東京スポーツによれば、優勝した台湾では、褒章に関わる規定「国光体育褒章頒発要点」に基づき、選手1人当たり700万台湾ドル(約3300万円)と、台湾のプロ野球選手の平均年俸を大きく上回る報奨金が支払われる。現地メディアの記者の話として、日本との決勝は台湾で大きな注目を集め、新聞でも一面で大々的に報じられたと伝えた。