
NHK大河ドラマ『べらぼう』で主役を務める、江戸時代中期に吉原で生まれ育った蔦屋重三郎(つたや じゅうざぶろう)。その波瀾万丈な生涯が描かれて話題となっている。第9回「玉菊燈籠恋の地獄」では、幼なじみで花魁の瀬川に身請け話が出たことで、彼女への思いに気づいた蔦重。遊女としての勤めが終わったタイミングで、瀬川と共に暮らそうと決意するが……。『なにかと人間くさい徳川将軍』など江戸時代の歴代将軍を解説した著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)
「投げ込み寺」の墓地に放り込まれた遊女の死体
初回放送以来の反響ではないだろうか。今回の第9回「玉菊燈籠(たまぎくどうろう)恋の地獄」が放送されると、ネットでは「NHK、攻めてる」という声が相次いだ。「五代目瀬川」の名を襲名した、小芝風花演じる花魁(おいらん)の花の井が、まさに客をとっている最中の生々しいシーンがあったからだ。
私も息を呑んだ視聴者の一人だが、また別の角度からもNHKが攻めていると感じる場面があった。順を追って解説していきたい。
まず、初回の放送で物議を醸したのは、愛希れいか演じる下級娼家の女郎・朝顔らが餓死して、裸で打ち捨てられるというシーンである。うつ伏せの3人の臀部がほぼあらわになっており、視聴者に大きなインパクトを与えた。
実際のところ、当時の遊女たちは、亡くなった場合にどうなったか。菩提寺に葬られるケースはまれで、三輪の浄閑寺や日本堤沿いの西方寺などのような投げ込み寺に、筵(むしろ)に素巻きにされた死体が運ばれることがほとんどだった。そして、200文ばかりを添えて、墓地の穴に放り込まれたという。
「死体を始末する」という言葉がぴったり当てはまるだろう。初回放送でのショッキングなシーンは、実際に遊女が亡くなったときの処置と、それほど乖離していなさそうだ。
遊郭に客さえ集まれば、困窮した遊女がこんな悲惨な目に遭うこともなくなるはず――。蔦重に「どうにかして吉原に客を呼んでみせる!」と決意させる意味でも、全裸で雑に扱われる遊女の死体の描写は物語上、重要なものだったといえそうだ。