靴の紐を結ぶときも頭の中はフル回転

 次から次へとプログラムを演じていくことになる羽生さんに唯一、与えられた小休止は演目と演目の間のわずかな時間だけである。しかも、衣装を着替え、そのために靴紐をゆるめ、締め直す作業が待っている。もちろん、完全に気を抜くことはできない。

靴紐を結ぶにも力がいる。写真は羽生結弦さんが実施した公開練習 「SharePractice」=2022年8月10日(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 最たる理由が、靴紐の結び加減はパフォーマンスやケガのリスクに直結するからだ。

 もちろん、誰かに委ねるわけにはいかない。自分がフィットする感覚に調整するための作業には「めちゃくちゃ握力を使うんです」と苦笑するほど、手の力を消耗する。

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 この間にも、頭の中はフル回転で「この身体をどうやって回復させようか」「次の演目に向けて身体の状態とテンポ感をどう変えていこうか」とめまぐるしく考えを巡らせている。

 そうして創り上げてきた唯一無二の単独公演はいまなお、まだまだ限界をみない。実際、羽生さんはインタビュー時に「『プロローグ』のときは、MCが長くて、プログラムの数もいまと比べると間違いなく少ないです」と正直に話している。

 単独公演を重ねる中で、凝縮度を高めていくには、それだけ負荷がかかる。その負荷に屈しないトレーニングと、想像を超える演出のために考えを巡らせ、「心・技・体」のすべてを高めていく。

前編から読む) 

■羽生結弦さん、単独インタビュー後記
(前編)プロスケーター羽生結弦はなぜ、「単独公演」にこだわるのか…技術で競技者を超え、規格外の表現目指す超一流の境地
(後編)プロスケーター羽生結弦が明かす「単独公演」の舞台裏…2時間で10近いプログラム、「一人で駅伝を走っている感覚」