2021年に首相を退任したメルケル氏(写真:ロイター/アフロ)2021年に首相を退任したメルケル氏(写真:ロイター/アフロ)

「欧州の再軍備」が市場の注目を集める中、ドイツ政界では歴史的な合意が交わされた。 次期政権樹立に向けて協議を開始した中道右派政党・キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と中道左派政党・社会民主党(SPD)による「債務ブレーキ法」の適用緩和だ。頑なに緊縮財政を維持してきたドイツに何が起きているのだろうか。(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

 3月に入ってから、ドイツを筆頭とするユーロ圏債券市場への注目が高まっている。

 現状に対しては2つの材料が重なっている。1つはタカ派姿勢の堅持を伝統とするドイツの財政運営が拡張方向に変わろうとしていること、もう1つはEU(欧州連合)全体でも防衛費を拡張しようという流れができつつあること、だ。

 にわかに「欧州の再軍備」がテーマ化する中(ドイツはインフラ投資も対象)、域内債券市場が歴史的な転換点に差し掛かっているという可能性を感じさせる。

 3月6日に開催されたECB(欧州中央銀行)の政策理事会でも、拡張財政の影響がユーロ圏経済を押し上げる可能性にECBのラガルド総裁が言及。同日に開催されたEU特別首脳会議では、「ReArm Europe(ヨーロッパ再軍備計画)」が全会一致で決断された。

 今の欧州債券市場、ひいてはEU政治で起きていることはドイツとEU全体の両サイドから理解する必要がある。

 今回のコラムではまず、ドイツの動きを押さえておきたい。

 今回のドイツ財政運営の変化は、ドイツの政治・経済が名実ともにアフターメルケル時代に入ったことを知らせる号砲と解釈できる重要な動きだ。EU全体が軍拡に傾斜していることは別の機会に論じ、整理した方が頭理に入りやすいだろう。

 目下、ドイツで最も注目されている動きを簡単に整理しておこう。