なぜ今回のドイツの方針転換が歴史的なのか?
この拡張財政路線に当然賛成と見られた環境政党・緑の党が3月10日に反旗を翻すなど、方針転換の雲行きは危うくなっているが、既にEU全体が再軍備に動き、欧州委員会が加盟各国に防衛支出の増加を要請している現実を踏まえれば、ドイツの歩む道が大きく変わることはないだろう(EUの動きについては次回以降のコラムで論じる)。実際、緑の党は妥協点を探るための対案も提示していると報じられている。
こうしたドイツの姿勢転換は歴史的な動きである。というのも、ユーロ圏創設以来、最大の経済規模を誇るドイツが財政支出を抑制するため、共通通貨圏の景気循環が平準化されないという批判が常に付きまとってきたからだ。
本来、同じ通貨圏であれば「豊かなエリア」から「豊かではないエリア」に再分配が行われることで平準化が行われる。例えば、日本の場合、東京からの地方交付税交付金で地方が支えられる。
これと同じように、共通通貨圏であれば、ドイツの財政運営を通じて周縁国へ何らか前向きな効果を伝播させることが期待される。ところが、こうした協調についてドイツはいつも消極的だった。
本来、欧州委員会の発行するユーロ圏共同債が最も分かりやすい再分配手段だが、この調整に際してもドイツが難色を示し続けてきた。
こうした状況を踏まえ、ドイツが拡張財政によって、せめて自国経済だけでも押し上げ、その需要をもって域内経済全体をけん引するという構図が次善策として期待され続けてきた。今回のドイツの姿勢変化はこれに相当する。
もちろん、ドイツは今回、ユーロ圏全体の利益を慮ったわけではなく、長期低迷する国内経済に配慮しただけというのが本音に近いかもしれない。そうであっても、ドイツが金科玉条の如く崇め奉ってきた緊縮路線を修正すること自体、ユーロ圏全体にとって極めて前向きな話ではある。