アフターメルケル時代を迎えたドイツ

 こうしたドイツの動きと呼応するように、当時のEUは財政ルールの厳格化に走るようになる。象徴的な動きが、2012年に締結された財政協定(Fiscal Compact)である。

 SGPがEUの「基礎ルール」だとすれば、財政協定はSGPを徹底させるための「強化ルール」と位置付けられる 。

 いずれにせよ、2000年代初頭に自分がルール破りを犯し、この余波もあって債務危機が発生し、半ば自分が尻ぬぐいさせられることになったドイツは2009年以降、債務ブレーキ法の導入やユーロ圏における債務協定締結など、兎にも角にも財政ルールを厳格化することに邁進してきた。

 程度の差こそあれ、こうしたドイツの緊縮主義はショルツ政権になってからも大きくは変わったわけではなかった。ところが、第二次トランプ政権誕生と共にロシア・ウクライナ戦争の扱いが変わり、それに乗じて自国経済の惨憺たる状況も相まって、いよいよドイツは拡張財政路線に舵を切らざるを得なくなったのである。

 メルケル首相が表舞台から去って3年、強固だったドイツの緊縮主義もいよいよアフターメルケル時代を本格的に迎えようとしているとも表現できるだろう。

※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2025年3月14日時点の分析です

唐鎌大輔(からかま・だいすけ)
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。