文=のかたあきこ 写真=木下清隆、名泉鍵湯 奥津荘
唐破風や格子が映える奥津荘本館は国の登録有形文化財
湯底からポコポコと湧き上がる名湯「鍵湯」
奥津温泉は、湯原温泉、湯郷(ゆのごう)温泉と並び、「美作(みまさか)三湯」のひとつとして知られ、開湯は神話時代までさかのぼるという。江戸時代には津山藩主、森忠政公が専用の湯治場を設けた名湯である。その、藩主ゆかりの「鍵湯」を引き継ぐのが「奥津荘」だ。名称は鍵をかけて一般入湯を禁じていたことによる。
鍵湯へと続く階段。レトロなタイル装飾で写真映えするスポット
「鍵湯」へは宿のフロントから川床へ向かって階段をおりる。湯治場風情を残すタイルと石造りの浴室には川石が敷き詰められた湯殿があり、湯底からは絶えずポコポコと温泉が湧き上がっている。これは泉源の上に湯殿があるためで、足元湧出湯泉と呼ばれ希少価値が高い。
鍵湯の湯底には川石が敷き詰められている
生まれたばかりの温泉はフレッシュで澄んでいる。pH9.3のアルカリ性単純温泉で、やわらかい肌心地だ。肌はスベスベになり、湯上がりはさっぱりする。ほかに神経痛やリウマチに、また飲泉もできて胃腸を整えると言われる。
立ち湯は全身のマッサージ効果でむくみがとれる
風呂は鍵湯のほかに、深さ120cmほどの立ち湯、貸し切り利用ができる「川の湯」「泉の湯」があり、滞在中は湯めぐりが楽しめる。
吉井川ほとりにある「足踏み洗濯」の像
奥津温泉は、温泉を利用した「足踏み洗濯」でも知られる。立ったまま足で衣を踏んで洗う奇習である。町の中心を流れる吉井川のほとりに大小の旅館が建ち、名勝・奥津渓に近い自然豊かな温泉地だ。岡山空港からは車で90分ほど。津山市からは北へ20km、鳥取県境の鏡野町にある。