2024年度前期、京都大で「教育格差を考える」と銘打ったゼミ形式の授業が開講された。子ども本人が変えることのできない「生まれ」(保護者の学歴、出身地域、性別など)によって最終学歴などの教育の結果に生じる差=「教育格差」がテーマ。担当の岡邊健教授(教育社会学)が京大1年生を対象に、教育格差の実状を学び、その存在に敏感になってもらうことを目的に開講したという。有力進学校の出身者が多くを占める京大生は、ある意味で教育格差の象徴的存在ともいえる。彼らは自らの教育体験をどのように振り返り、いかなる観点から教育格差について考えを巡らせたのか? 岡邊教授が8回にわたり、この授業の一部始終を「実況中継」風に紹介する。
<第1回>なぜ、親が大卒だと子も大卒に?京大生が教育格差を考えた…「3DS買ってもらえなかった」にみる階層再生産の子育て
<第2回>「どの高校に行くか」は、実は「生まれ」が決めている…“特殊すぎる”京大生「高校あるある」から教育格差を考えた
(岡邊 健:京都大学大学院教育学研究科教授)
難関国立大出身の女性が結婚する相手の学歴は?
第2講の予習範囲は、教科書『現場で使える教育社会学──教職のための「教育格差」入門』の10章だ。この章では、学校の進路指導について格差という視点から論じている。
日本では、大学入学者のほとんどが18~19歳。9割程度が卒業に至るので、最終学歴は、実質的にこの時期に決定するといってよい。
そして最終学歴は、その後の人生をある程度方向付ける。たとえば、高卒より大卒のほうが生涯賃金は高い(本連載の第4回で触れる)。また、人間関係の持ち方にも学歴は影響し、たとえば橘木俊詔・迫田さやか『夫婦格差社会』によれば、難関国立大学のグループ(東大など9大学)出身で結婚した女性の64%は、この大学グループ出身の男性と結婚しているという。
一方、これまでの記事でも強調してきたが、この社会は「自分の能力と意思に応じて教育を受ける機会が平等に開かれている」とは言いがたい。
やや古いデータだが、東京大学大学経営・政策研究センターが公開しているレポート「高校生の進路と親の年収の関連について」によれば、高校生の4年制大学進学率は、年収400万円以下の家庭では31%にとどまるのに対して、1000万円を超える家庭では62%に達している。
このような状況のなかで、学校、とりわけ高校における進路指導の意義をどう考えるべきか、そして、格差と向き合う進路指導はありうるのか──以上が10章の骨子である。