最低賃金に近い働き手が多い業界は「共倒れの危機」

 世間からは最低賃金の引き上げにかかわらず、自社努力で賃金を上げることを求める声も聞こえてきます。しかし、自社だけが時給を上げることになった場合、その分の利益が削られてしまうため、他社との競争において不利になってしまいかねません。ましてや、445円もの時給アップなど自社だけが負うリスクとしてはあまりにも金額が大きすぎます。

 特に最低賃金付近で雇用している働き手が多い業界は、他業界と比較して時給が見劣りし、業界全体の採用力が低下してしまう状況に追い込まれたとしても、同業他社が互いにけん制し合う形になって自力で時給相場を上げづらかったりします。

 そんな膠着状態が続くと、業界全体で共倒れすることになりかねません。しかし、最低賃金は同業他社も含めた全ての事業者に一律で適用されるため、業界全体の時給相場が上がることになって、他業界との差を埋めやすくなります。

 さらに、最低賃金付近で働く人は正社員ではなく、非正規社員と呼ばれる人たちが中心です。その中でも契約社員や派遣社員は賃金水準が比較的高めですが、非正規社員の約7割を占めているパートやアルバイトは賃金水準が大きく底上げされることになります。

 その結果、最低賃金よりもずっと賃金水準が高い正社員と非正規社員との間にある賃金格差を縮める効果が期待できます。

 無期雇用である正社員に対して基本的に非正規社員は有期雇用ですから、契約期間終了とともに雇用終了のリスクが伴います。そのため、本来であればリスクを背負う分賃金が高めに設定されても良いという考え方もあってしかるべきですが、扶養枠による上限規制なども影響して、ずっと賃金水準が抑えられる傾向にあります。