日本政府は防衛装備移転、すなわち、武器輸出のための準備を着々と行っている。ロシアからの軍事侵攻を受けるウクライナに、日本が防弾チョッキとヘルメットを支援物資として提供したのは2022年3月8日のこと。武力衝突のさなかにある国への防衛装備品の供与は前代未聞である。
なぜ、日本政府は海外への防衛装備移転を目指すのか、それが我々国民にどのような恩恵をもたらすのか──。『軍産複合体 自衛隊と防衛産業のリアル』(新潮社)を上梓した防衛問題研究家の桜林美佐氏に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)
──「靴下のことを考えろ!」というタイトルで、自衛官にとっての靴下の重要性について、まるまる一章費やして説明していました。
桜林美佐氏(以下、桜林):この章で伝えたかったことは「大事だと捉える人が限定されている装備品がある」ということです。
靴下が大切なのは、陸上自衛隊の、しかも歩兵(普通科)という職種の自衛官です。
日本が他国から侵攻を受けるようなことになった場合、最初に防衛の最前線に立つのは海上自衛隊や航空自衛隊です。
海や空で防衛しきれずに、上陸される事態となった場合は陸上での戦闘になります。ここで陸上自衛隊に求められるのは、どれだけ持ちこたえられるのかという継戦能力です。自衛隊の中で、陸上自衛隊が最後まで粘り強くあるべき存在なのです。
長い闘いの中で、何十キロもの行軍を強いられるかもわからない陸上自衛隊の歩兵の靴下が、すぐに破れてしまうような代物だったら、どうなるか。その歩兵の足には靴擦れができます。衛生環境の悪い戦場では、靴擦れから細菌が侵入し炎症を起こす可能性だってあります。そうなればもう、戦力にはなりません。傷病兵です。
多くの非戦闘員は、靴下よりも潜水艦や戦闘機が重要だと思いがちです。しかし、重要な装備品は、職種によって全く異なります。
靴下を例にすると、知識が不足している状態で「これは大事だからもっと購入しよう」「これは重要ではないから予算を削ろう」という仕分けをしてしまうことが、いかに危険なことか、おわかりいただけるかと思います。
──現在、日本国民の間で議論されている防衛産業は「ピント外れ」なものばかりだ、というふうに書かれていました。