装備品が「安かろう悪かろう」になる負のスパイラル
──サンフランシスコ平和条約の締結から70年以上が経ちますが、なぜいまだにそのようなイメージが残っているのですか。
桜林:1945年12月にGHQは神道指令を発しました。この覚書は、軍国主義の排除や政教分離を目的に、公文書におけるさまざまな用語に制限を設けるものでもありました。たとえば、「大東亜戦争」ではなく「太平洋戦争」というように、細かな規制がかけられたのです。
1952年4月の日本の独立回復により、神道指令は事実上、失効しました。しかし、なぜか私たちは、当たり前のように「大東亜戦争」とは言わずに、「太平洋戦争」という言葉を使用しています。
神道指令は何の法的拘束力がないにもかかわらず、長きにわたり日本人の意識を縛ってしまいました。
「防衛産業=悪」というイメージがいまだ根強いのは、無意識のうちに報道関係者が神道指令に縛られ、そのような報道をしているからかもしれません。
──日本の防衛産業の欠点として競争入札制度を挙げています。
桜林:競争入札制度のすべてを否定するわけではありません。民生品に近いようなものであれば、競争入札でいいものを低価格で手に入れたほうがいいに決まっています。
ただ、特殊な機能を求められるものに関しても競争入札を導入するのはいかがなものかと思います。特殊な防衛装備品を造れる企業は限定されています。にもかかわらず、対外的に透明性をアピールするために競争入札によって落札者を決める仕組みが取り入れられています。
競争入札では、性能よりも価格勝負になってしまいがちです。そういう観点から、防衛装備品で特殊な機能を求めるものに関しては、競争入札はふさわしくないと思います。
また、競争入札では前回の価格が次の入札価格の基準になります。一度、低価格で落札されたものには低価格の予算しかつけられません。すると、利益が出ないため、誰も入札に参加しなくなる。途方に暮れた自衛隊が懇意にしている企業に泣きついて赤字覚悟の入札に参加してもらっている、という話も耳にします。
さらに、競争入札では公平性を保つため仕様書を簡素化する傾向があります。細かな仕様をきちんと書いてしまうと、できる会社が1社しかない、という事態を招きかねないためです。
結果、価格競争になって一番安いところに発注せざるを得なくなります。そして、安かろう悪かろうのものを調達することになるのです。