日本の撮影現場でもインティマシー・コーディネーターの導入が始まっている(写真:PantherMedia/イメージマート)日本の撮影現場でもインティマシー・コーディネーターの導入が始まっている(写真:PantherMedia/イメージマート)

 映画やテレビドラマ、そして舞台には性的なシーンがある。作品の中で役者たちは疑似性行為を行い、自分の身体を公に曝さなければならない。そして、実際の撮影の場面では、大勢のスタッフに取り囲まれながら行為に及ぶ。みんなの期待を背負い、自分自身のキャリアのために役者たちは役に徹するが、本当は苦しい気持ちを抱える時もある。

 そのような役者たちの負担を最小限に抑え、現場におけるトラブルを取り除くために、2018年頃から世界的に撮影現場やショービジネスなどに導入されるようになったのがインティマシー・コーディネーター(以下、IC)だ。制作陣と役者双方の意見を聞きながら、両者の意向が最も反映され、安全だと感じられる撮影現場を整えるために間に入るコーディネーターである。

 ICの導入によって撮影現場はどう変わるのか。『インティマシー・コーディネーター 正義の味方じゃないけれど』(論創社)を上梓したICの西山ももこ氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──西山さんは、まだ日本ではとても数が少ない「インティマシー・コーディネーター」をされています。あらためて、ICとは何でしょうか?

西山ももこ氏(以下、西山):性描写があるシーンだったり、ヌードのような身体の露出があるシーンだったり、そのようなインティマシー・シーン(※)の撮影などに立ち会うコーディネーターです。特に、テレビドラマや映画の撮影に立ち会うことが多い仕事です。

 いわゆる性的な場面やラブシーンだけが想像されがちですが、温泉や銭湯のシーンなどにも入ることがあります。男性同士の銭湯のシーンで、男性が、もう一人の男性の背中を流してあげるような場面もありますよね。そういう場合に立ち会うこともあります。

※インティマシー・シーンとは、映像作品において、ヌードや肉体の露出の多い場面。または、身体的な接触や疑似性行為などを行う場面。

──フィクションの撮影しか入らないのかと思っていましたが、フィクションではなくても入るのですね。

西山:何度かリアリティーショーからも呼ばれました。こうした番組では、私の仕事もフィクションの撮影とは形が変わります。舞台の場合なども、またやり方が異なります。

 ですから、様々なコンテンツの現場をサポートしますし、それぞれ少しずつ介入の仕方は変わりますが、基本的にやることは、台本のト書き(台本に書かれた登場人物の心理描写)を読んで、「ここはインティマシー・シーンかな」と想像できるところを監督に確認して、私が入るべきところとそうでないところを決めていきます。

 監督の意向を確認した後は、「ト書きにはこう書いてありますが、ここは脱がなくていいみたいです」「ここはキスと書いてあるけれど、そのふりをするだけだから、実際の接触はありません」というような情報を撮影前に役者に伝え、演技の仕方などを話し合います。

──役者側の意向と、監督側の意向をそれぞれ聞いて、情報を伝え合っていくわけですが、全員が顔を突き合わせて話し合いをするのですか。それとも、西山さんが常に個別に話をして意向を聞いていくのですか。

西山:まず監督と話をしますが、監督がすべての権限を持っているわけではないこともあるので、助監督やプロデューサーなども交えて話をします。