「やっぱりやるのが不安。できればやりたくない」も本人のチョイス

──役者は西山さんからインティマシー・シーンの説明を受けて、どんな反応をしますか?

西山:慣れている方だとすぐに了解してもらえたり、「もっとこうしたほうが良くない?」「芝居としてはこういうほうが自然じゃない?」など意見をいただいたりします。こういうやり取りを経ることで、最終的に本番前のリハで、一緒に皆で細かく話し合うことができるようになるのです。

──最初は事前に個別に話をして、最終的に皆で確認するのですね。

西山:やはり「これはできる」「これはできない」「こうしたい」「これはやりたくない」というのは、みんなの前では言いづらい。個人的な事情も含め、話しにくいことは必ず事前に個別に話をしておきます。

 役者がある撮影を嫌がる場合も、「嫌だって言っています」とだけ監督に伝えると、監督側もつらく、不穏な空気になってしまう。ですから、「これはできないと言っていますけれど、これならできるそうです」と、役者からなるべく代替案を聞き出して、監督側に提示するようにしています。

 撮影当日、「やっぱりやるのが不安。できればやりたくない」と役者が言うこともあります。「やりたくない」「やらない」ということも本人のチョイスです。それが許される社会であってほしい。私は嫌がる人を説得はしません。

実際にインティマシー・コーディネーターが入っているオペラのリハ現場(写真:ロイター/アフロ)実際にインティマシー・コーディネーターが入っているオペラのリハ現場(写真:ロイター/アフロ)

──役者と演出側の橋渡しをするのがICの仕事、何かをジャッジしたり監視したりする立場ではない、と書かれています。

西山:私たちICが「これ駄目です」「あれ駄目です」と決める立場ではないということです。常に「コーディネーター」という立ち位置を忘れないようにしなければならないと思います。まずは、監督の意図があって、役者の気持ちがある。両者の意向をどう折り合いをつけていくかをコーディネートすることが仕事です。

「この作品にはとても力を入れているので制限を設けないでほしい」と役者から言われたこともあります。ICは何かをやめさせるという印象があるのでしょう。でも、諦めさせることが私たちの仕事ではありません。

 もちろん、役者が拒むことをやらせようとしたらストップをかけますが、そうでない限り、私たちは監査ではないのです。私たちは表現を狭める表現の敵ではないし、みんなの味方でいたい。役者たちだけの味方ではなくて、制作陣の味方でもあります。「来てくれて本当に気が楽になった」と言ってくださる制作スタッフもいます。

 撮影現場のスタッフも、「これやっていいのかな?」「ここに異性のスタッフが立ち会っていいの?」など、内心では皆いろいろな思いを抱えていますが、「自分の立場では口出しできない」と考えています。