「キスと書いてありますが、どういうキスですか?」

西山:このように、まずは監督サイドと話をして演出の内容を確認した後に、役者サイドと話をします。その時は、制作やプロデューサーは立ち会わず、私と役者、事務所によってはそこにマネージャーも入りますが、最小限の人数で話をします。

 役者の考えを聞いたら、その内容を制作サイドに伝え、「これはちょっと避けたいみたいですけれど、こういうことだったらできると言っています」ということをまた話して本番の撮影に臨みます。

 この仕事は事前の準備やミーティングが一番大切なのです。当日、関係者が情報を共有していて、どういうことが行われるか分かっている。そういう状態にしておくことが大切です。

 ただ、撮影当日になって演出方法を何も変えてはいけないというわけではありません。カメラアングルなど、現場で決まっていくことはいろいろあります。ただ、変えてはならないこともある。

「ここは服を脱がないって言ったけれど、やっぱし、もうちょっと脱いじゃおうか」というようなことが起こらないようにするのです。

 事前に話し合っておけば、何をどこまでするべきか監督も役者も分かるので、現場で役者が戸惑ったり、できないと言われて制作サイドが困ったりするという事態に陥らなくなります。

──「このシーンはこうする」という構想を、撮影前に監督はどれぐらいきっちり頭の中にイメージできているものですか?

西山:人によりますね。きっちりイメージがある方もあれば、「ちょっとそこまでは考えていない」という場合もあります。

 不確かな場合には、むしろ私のほうから「キスと書いてありますが、どういうキスですか?」「ここからその後はどうなりますか?」「どこまで脱がしますか?」「脱いだ時に、下はキャミソールですか、ブラジャーですか?」と聞いていく。

 そうすると、結果的に監督とかなり話し合い、いろいろと可能性を広げていくことができます。

 ドラマの中でインティマシー・シーンが多いと、次第にやることも似通ってきますよね。「1話ではこうしたから、3話ではこうしたほうがいいのでは?」「この2人の関係性を考えると、こうなるのは少しおかしい」というようなところまで話し合います。

 何度も一緒に仕事をした監督になると、「このシーンの動きは西山さんに任せるよ」とおっしゃる方もいます。

 監督のイメージが不確かな場合は、過去の作品を監督に見せながら「こういう感じですか?」「そうそう、そういう感じ」と具体的な動きを決めていきます。そうした参考資料は役者側とも共有します。言葉だけでは伝わりません。見せながら「実際にはこれはやらないけれど、でもテンションはこんな感じ」など伝えていく。

 監督や助監督などと私が実演するように動き回って、身体を動かしながら振り付けなどを決めていくこともあります。どこかアクション・シーンの撮影に似ているかもしれません。