辞任を表明した東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(写真:アフロスポーツ)

 部活におけるいじめや指導者による体罰やパワハラなど、日本のスポーツ組織はたびたび問題を起こしている。その根源にあるのは、年齢や立場が上の人に対して、自分の意見を表明したり、反論したりするのを遠慮してしまう「体育会系」の風土ではないだろうか。「体育会系」の人間関係は、硬直した先輩・後輩システムや権威によって成り立っている場合が少なくない。

 こういった序列化された人間関係の中で、眉間にしわを寄せてひたすら勝利を目指すのではなく、もっと明るい雰囲気の中で自由にスポーツを楽しむべきだと語るのが、ドイツ在住のジャーナリスト、高松平蔵(たかまつ・へいぞう)氏だ。高松氏は、そのヒントをドイツのスポーツクラブに見る。

 子供から大人までスポーツを長く続けられる仕組み、社交やデモクラシー教育の場、社会インフラとして役割を果たすスポーツクラブ、しごきがなく「スポーツバカ」がいない理由──。『ドイツの学校にはなぜ「部活」がないのか』(晃洋書房)を上梓した高松氏に話を聞いた。(聞き手:松葉 早智 シード・プランニング研究員)

(※記事中に高松平蔵氏の動画インタビューが掲載されているので是非ご覧ください)

──高松さんは2002年からドイツに住んでいらっしゃいます。日本では新型コロナウイルス感染症の流行によって、子供からプロまでスポーツそのものができなくなったり、無観客試合になったり、これまでとは違った応援の仕方が求められたりしています。現在、ドイツではスポーツクラブの運営などにどのような影響が出ていますか。

高松平蔵氏(以下、高松):ドイツでは、スポーツクラブが社会の一つのインフラになっています。運動したい人だけではなく、社交やコミュニケーションの面で生活の質を高める役割と機能が大きく、社会全体で日常生活にスポーツを取り戻したいという雰囲気が強くあります。

 スポーツクラブの内容については後ほど詳しくご説明しますが、新型コロナウイルスの影響で基本的に活動停止で、クラブ運営に大きな支障が出ています。

 大きな規模のスポーツクラブは、クラブが自ら運営する施設を持っています。しかし、辞めてしまう人もいるし、新しいメンバーも入ってこないため、人件費や維持費をどう確保するのかという問題に直面しています。クラブ側は、自宅でできるエクササイズプログラムを配信したり、寄付を集めたり、政治や行政に働きかけて運営を維持できるような制度をつくろうと試行錯誤を続けています。

スポーツ活動は学校でなくスポーツクラブでやるもの

──ドイツでは子供たちは学校ではなく、スポーツクラブでスポーツをするそうですね。ドイツのスポーツクラブについて教えてください。

高松:私は京都の地域経済紙に勤務した後、妻の故郷のドイツに拠点を移しました。そして、ジャーナリストとして主に地元やその周辺地域を取材し、「都市の発展」をテーマに執筆や講演をしてきました。

 ある時、ドイツの非営利組織、ここでは日本で馴染みのあるNPO(非営利組織)という名称で進めますが、これについて調べたところ、その数は全国で約60万あり、日本(約5万2000)より桁違いに多いことがわかりました。

 さらにNPOがカバーする分野として環境、文化、福祉などの中でも、スポーツ分野(=スポーツクラブ)が非常に多く、約9万もあることがわかりました。例えば、私が住んでいるエアランゲン市(バイエルン州)は人口11万人ほどの街ですが、NPO組織が740以上あります。そのうち100程度がスポーツ分野のNPOです。

高松平蔵氏のインタビューはこちら

 ドイツの学校には部活がありません。日本と比べると学校は「授業をし、学問を教える」ことに徹しています。もちろん体育の授業はありますが、子供たちが任意で行うスポーツ活動は、学校でするものではなくスポーツクラブでするものなんです。