県議会による不信任決議を受け、記者会見で失職を決めたことを明らかにする斎藤氏(9月26日)

9月30日、パワハラ疑惑や独裁的な県政運営が問題視された斎藤元彦・兵庫県知事が失職した。一連の騒動で県政は停滞し、県議会は全会一致で斎藤知事への不信任を決議した。有力な支援が見込めないにもかかわらず、本人は出直し選挙に出馬する意向だ。取り沙汰される疑惑の数々と時折垣間見える「自分は悪くない」との本音——。知事就任以前から長く取材してきたフリー記者が見た「斎藤元彦、最後の日々」とは。(以下、文中敬称略)

(松本 創:ノンフィクションライター)

「ぜひ県民の皆さんの力をいただいて県庁に戻って来たい」

 9月27日午後3時。斎藤元彦・兵庫県知事の失職前最後の公務は、幹部職員約25人が居並ぶ政策会議で、「パワハラ」と告発された自らの言動に反省の弁を述べることだった。

「厳しい言い方で『なんでできないのか』『こういうことをやってほしい』と言ったことも確かにある。皆さんには不快な思いや負担を負わせてしまった。私が至らなかった。それぞれの現場で一生懸命やっていただいたことに、まず『ありがとう』と言うべきだった」

最終登庁日となった9月27日、幹部職員に頭を下げる斎藤氏

 会議の開始前、幹部たちはサバサバした明るい表情で談笑していた。斎藤の挨拶が終わって報道陣が退室すると、新知事就任まで職務代理者となる服部洋平副知事が型通りにねぎらいを述べ、幹部たちは無言の拍手で斎藤を庁議室から送り出したという。

 続いて、86人の全議員から不信任を突き付けられた県議会の各会派をアポなしで回った斎藤は、午後5時50分、私物を詰めた紙袋を提げて県庁1階のロビーに姿を見せた。

「私はもっといろんな政策をやっていきたい。ぜひ県民の皆さんの力をいただいて県庁に戻って来たい」

 そう報道陣に言い残すと、公用車のミニバン「アルファード」で走り去った。井戸敏三・前知事が乗っていた高級セダン「センチュリー」は高額すぎると3年前の選挙で見直しを公約した、「改革」を象徴する車種。だが、激怒してシートを蹴り上げたという職員の証言も複数ある。

 退庁を見送りに来た職員や県民は、わずか十数人。県議は維新の会の1人だけだった。