3年2カ月に及んだ「塀の中」の生活を経て、昨年11月、栃木県の刑務所から仮釈放となった河井克行・元法務大臣。刑務所の中では獄中の体験について月刊誌に連載を書き続け、それは本になった。元法務大臣は刑務所の中で、受刑者としてどんな光景を目の当たりにしたのか。『獄中日記 塀の中に落ちた法務大臣の1160日』(飛鳥新社)を上梓した河井克行氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──書籍の中では、刑務所内の改善すべき様々な設備やプログラムについて書かれています。
河井克行氏(以下、河井):刑務所に収監された段階で、その人の人生はもう破壊されています。もちろん被害者がいる場合は被害者の人生も破壊されていて、だからこそ受刑者は罪に問われたので、生涯かけて償う必要があります。けれども、罪を犯した方もまた、刑務所に入った段階ですべてを失っています。
仕事も収入もなくなる。財産も補償に当てなければならない。離婚されたり、親子の縁を切られたり、大切な家族との絆が断ち切られる場合も少なくありません。社会との接点はほぼ失われてしまうのです。
そうした状況下で、数年間、閉鎖空間で過ごすわけですが、入所した段階はゼロか、むしろマイナスからのスタートですよね。では刑務所の中で、多少なりとも人生がプラスに転じていくかというと、自分が刑務所生活を経験してみて分かりましたが、むしろマイナスが増えてしまうのが現実です。
──プラスは全くないですか。
河井:刑務所の中で受けることができる資格試験は簿記しかありません。簿記を否定するわけではありませんが、今の時代、社会で役立ちそうな資格試験は他にもたくさんあるでしょう。
「英検、TOEIC、漢検などがなんで受けられないんだ」と工場の同衆たちはしきりに文句を言っていました。そういうものは刑務所内で挑戦できる資格として用意されていませんでした。
そして、いざ簿記の勉強を始めるにしても障害がありました。受刑者は、私がいた図書計算工場から参考書を借ります。私はまさにその「特別貸与本」の担当をしていましたから、実態をよく知っています。
しょっちゅう参考書や問題集を借りたいという申し込みが来ますけど、喜連川に受刑者は1400人くらいいるのに、簿記試験の参考書は3、4冊しかない。それもかなり古いものばかりでした。「今貸し出し中です」と、申し込み用紙にいつも断りばかりを書かなければならないのが、本当に心苦しかったです。
借りられないのなら、自分で買えばいいと思うかもしれませんが、お金を持っていない方が少なくありません。