防衛産業から企業が次々と撤退している理由

──2023年6月には、防衛生産基盤強化法が成立しました。

桜林:防衛生産基盤強化法は、防衛産業立て直しを目的とした初めての法律です。

 防衛産業では、企業の撤退や倒産が相次いでいます。このままでは日本の防衛装備品の生産能力がどんどん失われていくのではないか。そういう危機感が高まった結果が、防衛生産基盤強化法の成立です。

──なぜ防衛産業から次々と企業が撤退しているのでしょうか。

桜林:日本の防衛費は今でこそ大幅な増額傾向にありますが、冷戦後は減額の一途をたどり、2013年頃から微増したもののほぼ一定額で、大きな変化はありませんでした。

 その一方で、高性能化によって防衛装備品の単価は上がり続けています。予算が変わらず単価が上がっているわけですから、企業の防衛装備品の受注は、長らく減少傾向にありました。当然、利益なんて期待できません。

 受注がない、利益が上がらない事業は民間企業では継続不可能です。これまでは赤字であっても企業のトップが「国のためだから防衛事業は続ける」と判断することもありましたが、最近ではそういう風潮もなくなってしまいました。

──防衛産業から企業の撤退防止、新規参入促進のために何が必要だと思いますか。

桜林:防衛予算が増大したとは言え、企業には確実な受注が約束されているわけではありません。

 民間企業が求めているのは「受注がある程度、予見できること」「安定した利益をもたらすこと」の2点です。それを少しでも補完するような仕組みが必要だと思います。

 また現在、防衛部門を抱える企業の多くはその事実を公にしたがりません。というのも、防衛事業をやっていること自体が企業イメージにマイナスに働くからです。

 安定性もなければ利益も約束されない、さらには会社のイメージダウンになる事業に、わざわざ新規で参入しようとする民間企業が果たして存在するのか疑問です。

 防衛産業が企業のイメージ向上に一役買うような存在になる必要があると感じています。

──なぜ、防衛関連の事業をしていることが企業価値の低下につながるのでしょうか。

桜林:日本が敗戦国であり、戦後の厭戦気分や反戦思考が根強く残っているためではないでしょうか。仕方のないことですが、防衛産業にはマイナスに働いていることは確かです。

 終戦直後からサンフランシスコ平和条約の締結まで、日本では防衛産業が禁止されていました。このときに「防衛産業=悪」というイメージが世間に浸透してしまったのだと思います。