(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年10月29日付)

ロシア極東の訓練所でロシア軍の軍服と装備を支給される北朝鮮兵(10月18日、ビデオ画像より、提供:Ukrainian Center for Strategic Communication and Information Security/Newscom/アフロ)

「世界大戦への第一歩」

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキーは想定されているロシア・ウクライナ紛争の戦線への北朝鮮兵士の到来をこう描写してみせた。

 西側諸国の安全保障担当の高官は何カ月も前から、ロシアと北朝鮮、イラン、中国から成る「敵対国の枢軸」の間の協力拡大について警鐘を鳴らしてきた。

 北朝鮮によるロシア支援は、その枢軸が活動しているところを示す最も劇的な証拠だ。

 敵対国4カ国のうち、西側で最も注目度が低かったのが北朝鮮だ。

 米国のドナルド・トランプと北朝鮮の独裁者である金正恩(キム・ジョンウン)が試みた和解が2019年に頓挫した後、北朝鮮はニュースの見出しから消え去った。

戦争に入る戦略的な決断下した金正恩

 しかし、北朝鮮問題の専門家は何カ月もの間、警鐘を鳴らしてきた。

 今年1月、有力な北朝鮮ウォッチャーのロバート・カーリンとジークフリート・ヘッカーは「金正恩が戦争へ突入する戦略的な決断を下した」と警告した。

 カーリンは数十年にわたり米国務省の北朝鮮担当チームを率いた人物で、ヘッカーは米ロスアラモス国立研究所の元所長だ。どちらも何度も北朝鮮を訪れている。

 2人は共同執筆した論文で、金正恩が米国との関係を改善する努力を放棄し、米韓両国と対立する政策を選んだと警告した。

 最後は悲観的に「北朝鮮は潜在的に50ないし60発の核弾頭が入った大きな核兵器庫を持っている。(金正恩の)最近の言動は、その武器庫を使った軍事的解決策の可能性を示唆している」と締めくくった。

 この1年で、北朝鮮の政策の過激化の兆候がどんどん増えていった。6月にはロシアと北朝鮮が相互防衛協定に調印した。

 北朝鮮はいずれ韓国と再統一する目標を正式に捨て、代わりに韓国を和解不能な敵対国に指定した。この数週間、北朝鮮は南北をつなぐ道路も複数爆破している。

 プーチンや中国の習近平と同様、金正恩は米国が長期的な衰退に入っていると確信したようだ。

 習近平が「1世紀にわたって見られなかった大きな変化」として称えた世界的な勢力再編の一環として、自身の敵に対して勝つ歴史的なチャンスをかぎ取っているのかもしれない。