- インターネット、iPhone、そしてChatGPT……。革新的な技術は、いつもパラダイムシフトを引き起こしてきた。そして今また一つ、世界を変えるイノベーションが誕生しつつある。
- 既存の学問領域にとらわれない研究を推進するフォーラム「Scienc-ome」に集う研究者が未来を語る連載。第1回は老化研究の第一人者でScienc-ome創始者でもある慶應義塾大学の早野元詞氏。
- 人類の夢「不老不死」を実現すべく、寿命を延ばす研究は加速している。巨額資金が集まり産業へと展開する動きも出始めている。早野氏は「まもなく人生250年の時代が来る」と語る。
(竹林 篤実:理系ライターズ「チーム・パスカル」代表)
「Scienc-ome」とは
新進気鋭の研究者たちが、オンラインで最新の研究成果を発表し合って交流するフォーラム。「反分野的」をキャッチフレーズに、既存の学問領域にとらわれない、ボーダーレスな研究とイノベーションの推進に力を入れている。フォーラムは基本的に毎週水曜日21時~22時(日本時間)に開催され、アメリカ、ヨーロッパ、中国など世界中から参加が出来る。企業や投資家、さらに高校生も参加している。>>フォーラムへ
「老化は病気」である
2020年に翻訳出版され日本でも話題となった『LIFESPAN 老いなき世界』(東洋経済新報社)。この世界的なベストセラーの中で、著者である米ハーバード大学大学院のデビッド・A・シンクレア教授は、「老化は治療できる病だ」と主張した。シンクレア教授は20年以上、老化の原因探求と若返りに関する研究に取り組み、研究成果を生かすためのベンチャーも起業している。
そのデビッド教授のラボで2013年から研究員を務めた慶應義塾大学特任講師の早野元詞氏は「今ではFDA(アメリカ食品医薬品局)も老化を疾患として捉え、NIH(アメリカ国立衛生研究所)はその基盤の理解と治療薬の開発を始めています。2023年の改定では見送られましたが、WHO(世界保健機関)でも老化を病として定義する動きが出ています」と、老化研究の動向を説明する。
老化が病であり原因を解明できるのであれば、治療の可能性が出てくる。歴史を振り返ればすでに1932年には、カロリー制限による延命効果が明らかにされていた。後に実施されたサルの長期観察研究により、カロリー制限により健康寿命が延びる可能性が示されている。そのメカニズムとして、現在ではSIRT(サーチュイン)をはじめ多くの遺伝子が明らかにされつつあり、老化を防ぐ方法は少なくともマウスやサルなどでは見つかっていたのだ。
「2000年頃から、カロリー制限によって引き起こされる長寿化のメカニズムが明らかになってきました。カロリーを制限すると細胞内でNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)と呼ばれる化合物が増えます」
「NAD+は、別名『長寿遺伝子』とも呼ばれるSIRT遺伝子を活性化させて、細胞老化を遅らせるのです。ここ2~3年の間によく広告を見かけるようになったサプリメントのNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)は、NAD+の前駆体、つまりNAD+ができる前の段階の物質です。だからNMNを摂取すればNAD+がより多く作られて、SIRTの活性化につながる、すなわち長寿効果を期待できるというわけです」